daryl hall_before after

ダリル・ホールの2枚組ベスト・アルバム『BEFORE AFTER』を、今週末4月1日(金)の世界同時発売に先駆けてご紹介。顧みればダリルは、ホール&オーツの活動休止の時期や節目のタイミングで5枚のソロ作を出している。時間の幅は約35年。そこからダリル自身が選曲し、当人が“LFDH”と呼ぶライヴ映像プロジェクト『LIVE FROM DARYL'S HOUSE』から音源を追加したのがコレだ。ただ、このライヴ音源のいくつかがベスト・セクションの合間に散りばめられているので、「??」と思っていたら、その曲順を決めたのもダリル本人だという。

収録曲の出典は以下の通り。

『SACRED SONGS』 (1980) 6曲
『THREE HEARTS IN THE HAPPY ENDING MACHINE(ドリームタイム)』 (1986) 5曲
『SOUL ALONE』 (1993) 5曲
『CAN'T STOP DREAMING』 (1996) 5曲
『LAUGHING DOWN CRYING』 (2011) 2曲

これに『LIVE FROM DARYL'S HOUSE』#84までのエピソードから6回分8曲を選りすぐり、デイヴ・スチュワートを迎えてのユーリズミックス・カヴァー<Here Comes The Rain Again>、同じくトッド・ラングレンを迎えて大きな話題になった<Can We Still Be Friends>、それに十八番のソウル・カヴァー<Our Day Will Come>や<Neither One of Us>などをチョイス。最新作『LAUGHING DOWN CRYING』からも2曲をライヴで取り上げた。

でも何よりダリルのコダワリを感じるのは、ディスク1終盤に続けて収められたブルース関連2曲だ。<In My Own Dream>はポール・バターフィールドのトーキング・ブルースのカヴァー。ブルース・ギタリストのモンティ・モンゴメリーと共演した<North Star>は、 元々ロバート・フリップ(キング・クリムゾン)と77年に作った『SACRED SONGS』に入れる予定だったもので、当時所属していたRCAの発売拒否に遭った。しかも2年待たされてようやく発売された時には、何と収録から外され、後年CDで復刻された際にようやくボーナス曲として陽の目を見ている。でもこのヴァージンを聴くと、ピーター・グリーン期のフリートウッド・マック人気曲<Albatross>にダイレクトに繋がるし、スティーヴ・ハイエットのアンビエント名盤『DOWN ON THE ROAD BY THE BEACH(渚にて)』(83年)にも通じる。『SACRED SONGS』はホール&オーツの流れで聴くと確かにアヴァンギャルドだけど、ダリルの中にはこうしたエキセントリックな面があったワケで。この流れで聴く『SACRED SONGS』からの<NYCNY>は、完全にクリムゾンの世界。ダリルのヴォーカルも、エイドリアン・ブリューを先取りしたみたい。結局『SACRED SONGS』関連は、ダントツの7曲所収。それだけ愛着があったのだろう。

詰まるところ、ダリルのソロ活動というのは、常にホール& オーツとの距離感を見極める中で生まれてきた。初ソロ『SACRED SONGS』は、ジョンとはできない実験的なコトを演るのがスタートで、かけ離れ過ぎてお蔵入りになり掛けたが、なるほど、『VOICES(モダン・ヴォイス)』でブレイクする以前のニュー・ウェイヴ路線にはそのまま繋がる。『ドリームタイム』を手掛けたデイヴ・スチュワートも、初期ホール& オーツをプロデュースしたトッドと資質的に似ていると思うし。『SOUL ALONE』と『CAN'T STOP DREAMING』は、デュオの開店休業中だからこそ出てきた作品。前者はオーヴァープロデュース気味だったが、日本向けに作られたような後者は、逆に肩の力が抜けていて、最もAOR寄りの、小洒落たモダン・ポップなブルー・アイド・ソウル好作になった。この2枚組ベストの日本盤ボーナス・トラックである<What's In Your World>も、『CAN'T STOP DREAMING』からのチョイス。当時タバコのパーラメントのCMに使われ、日本のみでシングル展開された好バラードである。

で、2枚組のラストをガッチリ固めるのが、最近作やポップ/ソウル・カヴァーのソウルフルなライヴ・チューン。やっぱりダリルが戻る場所は、きっとそこなんだな。

ちなみに『LIVE FROM DARYL'S HOUSE』は、いつの間にかダリルのホーム・スタジオから、あまり遠くないところに作られたライヴ・レストラン“DARYL'S HOUSE”でのシューティングになり、ネット配信からTVへと拡大している。今月からは番組のハウス・バンドを従え、トッドをゲストに迎えて全ソロ・ツアーがスタートするそうだ。
Live From Daryl's House Website