sparks_big beat

ほぼ同時に公開された2本の関連映画が相乗効果を上げ、いきなり盛り上がっているスパークス。1本は、半世紀以上に渡る彼ら自身のキャリアを振り返った『スパークス・ブラザーズ』。もう1本は、レオス・カラックス監督の待望の新作で、スパークスが原案・音楽に共同で脚本まで手掛けたミュージカル映画『アネット』。70年代前半の初期作品は、美形の弟ラッセルのオペラっぽいヴォーカルや場面展開の早いサウンド作りがクイーンに影響を与えた、なんて言われていた。当時はデヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックあたりと並べて、グラム・ロック系と見られていたけれど、このアルバム・ジャケのようにチープ・トリックをふたヒネリしたみたいな変形パワー・ポップ・テイストも感じさせたな。

佇まいは英国っぽいけど、ロン&ラッセルのメイル兄弟は南カリフォルニアの出身。トッド・ラングレンに見出され、71年にハーフネルソンというバンド名でデビュー。ツアーのウケが良かった英国に拠点を移してスパークスと改名し、レーベルもアイランドに移った『KIMONO MYHOUSE』(74年/改名後2作目)で脚光を浴びた。自分が初めて聴いたスパークスは確かそれだったが、一番よく聴いたのは、ジョルジオ・モロダーがプロデュースした79年の『NO.1 IN HEAVEN』。グラム・ロックと言われたバンドが、数年の間にテクノ・ディスコに行ってしまったことに驚いたが、当時はYMO人気などあり、ドナ・サマーのような正調ディスコよりもブッ飛んでいて面白かった。

で、この『BIG BEAT』(76年)は、『KIMONO MY HOUSE』と『NO.1 IN HEAVEN』の中間に当たるアイランドでの4作目。英国からUS本国に戻ったアルバムで、ニューヨーク・パンクに影響されてシンプルな作風になった、と言われた。確かにギター・リフを中心に組み立てたようなロックン・ロールが多めで、初めて聴いた時は「ドラムがデカい〜」と驚いた記憶が。トーキング・ヘッズやテレヴィジョン、ブロンディなどとの共通点がアチコチに覗くけど、個人的にはチープ・トリックやザ・ナック、カーズ、4人編成になってからのユートピア、売れる前のホール&オーツなどとの共通項をより強く感じる。この『BIG BEAT』のプロデューサーは、何とAORヒットを出す前のルパート・ホームス。セイラーとかジョン・マイルズ、リンジー・ディ・ポール、ストローブス、オーケストラ・ルナを手掛けていた頃の作品だ。リイシュー盤にボーナス収録されたシングル曲のビートルズ・カヴァー<抱きしめたい>なんて、もろにルパートらしい凝ったアレンジで、意外にも両者の相性の良さを感じさせる。しかも次作『INTRODUCING SPARKS』では、デヴィッド・フォスター、デヴィッド・ペイチ、リー・リトナー、マイク・ポーカロあたりが起用されててビックリ。でもまぁ、トッドと70年代のフォスターには少しヒネたポップ・ロックを得意とする接点があったし、メイル兄弟も若い頃はビーチ・ボーイズとかに熱中していたそう。だからプロデューサーとしてのルパートも、そのあたりのパラノイア的音楽観に片足を突っ込んだ、というコトかもしれない。

自分がスパークスを積極的に聴いていたのは、80年代半ば頃まで。その後のスパークスはあまりアクティヴじゃなかった時期もあるが、兄弟のヘンテコなコンビネーションは崩れるコトなく、50年の歴史を刻んだ。映画『スパークス・ブラザーズ』は、首都圏では上映終了のシアターもあれば、これから始まるところもある。予告編を観たら、俄然観たくなってきてしまったよ。





スパークス・ブラザーズ 予告編