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4年前に発表したマイケル・フランクスのカヴァー集『COOL SCHOOL(The Music of Michael Franks)』が好評を呼んだリオ・シドランのニュー・アルバム『THE ART OF CONVERSATION』が、我が【Light Mellow Searches】from P-VINEからリリース。セールス的に厳しいか…、とも考えたが、内容の充実度と前作の評価、そして最近オヤジのベン・シドランが小難しい方向に行ってしまって国内リリースから遠ざかっているので、ベンのコア・ファンに「息子は元気!」と近況をお伝えしたい気持ちも込めつつで…。

リオは当初、『COOL SCHOOL』に次ぐプロジェクトをどのような作品にすべきか、いろいろ迷っていたらしい。デイヴ・フリッシュバーグ、ボブ・ドロウ、ケニー・ランキン、ダン・ヒックス、そして父ベンの楽曲を素材に、『COOL SCHOOL Vol.2』を作るアイディアもあったそうだ。実際<Trying Times>という曲を書き上げて、即・レコーディングした時には、ベンの<Song For A Sucker Like You>をカヴァーして4曲入りEPとしてリリースする計画だったという。でもそこにコロナ・パンデミックが襲ってきて、リリースは棚上げ。巣篭もり時間で更に楽曲を書き溜め、それをホーム・スタジオで録音して、ハンドメイドの作品が出来上がった。

だから今作は、収録曲の多くのパートがワンマン・レコーディング。でもほとんどの曲に最低ひとりは外部ミュージシャンを迎えることにした。面白いことに、コロナが原因で、ミュージシャンはみんな自宅にポータブルなスタジオ環境を整えるようになった。だからコラボレーションはコロナ前よりも簡単になったという。リッキー・ピーターソン、カート・エリング、クレモンティーヌ、ハワード・レヴィにアントニオ・セラーノ、ラリー・ゴールディングス、かつて一緒にジョイ・アンド・ザ・ボーイというプロジェクトを組んでいて現在はノルウェーに移住したジョイ・ドラグランド…。その中には、パンデミックがなければ共演が実現しなかったであろう人たちもいるそうだ。

ハイライトは、“ウルグアイのカエターノ・ヴェローゾ”との異名を取るシンガー:ホルヘ・ドレクスレルの<Row On>(原題<Al Otro Lado del Rio(川を渡って木立の中へ)>)。でもこれはホルヘの楽曲の英語カヴァーではなく、正確にはホルヘとベンがしばらく前に共作したナンバー。ホルヘのオリジナル・ヴァージョンは、世界的成功を収めた映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』の主題歌として、04年にオスカーを受賞している。リオにとっては、まさに自分のキャリアを代表する曲なのだ。その時リオは、まだ26歳。あまりに突然大きな評価を得てしまい、オスカー受賞から約10年、自分のアルバムを作ることができなくなってしまった。故に今回は、気持ちを込めてのセルフ・リメイクだったのだろう。アレンジにはアメリカーナやブルースからのインフルエンスを注入し、英詞には普遍的ニュアンスを強調。前述の豪華ゲスト陣の多くも、この曲のクワイア・パートに参加している。そして最後にホルヘ自身が加わってくれた。

父ベンはインテリジェンスを飄々と語るのが特徴だったが、息子リオはそれをもっと親しみやすく、自然に体現する。<Trying Times>や<Georgette>などを聴くと、その作風はノラ・ジョーンズの傑作デビュー作に楽曲提供して有名になったジェシー・ハリスによく似ている。実際リオはジェシーの作品が好きで、「影響を受けたものが近いんだろう」と考えているそう。当時リオはウィスコンシンに住んでいたが、ジェシーの音楽を知って、“この曲が書かれた街に住もう” とニューヨークに引っ越したそうだ。現在は友人関係にあって、リオが14年から続けているポッドキャスト番組にも出演している。

またアルバム・タイトル曲<The Art Of Conversation>には、ジャズ・シンガー:キャット・エドモンソンが参加してボサノヴァ・スタイルに。<Body and the Brain>では、ジョン・ヘンドリックスやマーク・マーフィーを意識したスキャットを交え、一部をロボ声に変換して近未来感を捻出した。

ジュニア世代ゆえか、どうしてもスルーされ気味のベンだけれど、マイケル・フランクスのカヴァー集『COOL SCHOOL』で彼の魅力に気づいたAORファンも少なくないはず。そのテイストは、父ベンのカヴァーを含むこの新作にも、シッカリ踏襲されている。