junnko sakurada

ちょっとビックリの山下達郎フィーヴァーに乗じて、今月29日に発売されるビクター・マスターピース・コレクション【フィメール・シティ・ポップ名作選】から、若き日の山下達郎が2曲楽曲提供した、桜田淳子『パーティー・イズ・オーバー +2』をご紹介。解説は自分が書かせていただいてます。

もう「桜田淳子って誰…?」という方も少なくないだろうが、彼女はかのTVオーディション番組『スター誕生』からデビューし、森昌子、山口百恵とともに中三トリオとして一世を風靡した、当時の大人気アイドル歌手。本作が出た1979年頃は既に20歳を越え、歌と併行して女優のキャリアをスタートさせた頃。オトナのシンガーへの脱皮を図り、翌80年には主演ミュージカル『アニーよ銃をとれ』で新たな才能を開花させている。

達郎氏が書いたのは、<センチメンタル・ボーイ>と<バカンスの終わりに>の2曲。氏の外部提供曲ばかりで組まれた企画作『THE WORKS OF TATSURO YAMASHITA Vol.1』(04年発表/通販・ライヴ会場のみで販売)に寄せたコメントによれば、“とある女性アイドルに書き下ろした作品でしたが、突然の引退で宙に浮いてしまっていたのを、桜田淳子さんのディレクターが拾ってくれた” とのこと。曲先で作曲しただけで、その時点では歌詞はなく、いつ詞が乗ったかも分からない。当人も知らないうちにレコード化されたそうで、書いた本人はレコーディングにはノータッチだったそうだ。それでもアレンジは、当時の達郎グループのギタリスト:椎名和夫によるもの。

オリジナル盤に参加ミュージシャンの記載はないが、そのワークス集で以下のように明示されている。
渡嘉敷祐一(ds) 渡辺直樹(b) 松原正樹・椎名和夫(g) 難波弘之(kyd) 菅野裕紀(perc) 多忠明グループ(strings) 数原晋(tr)ジェイク・H・コンセプション(sax)平内保夫(tb)

<センチメンタル・ボーイ>はホーンが効いていて、スキップ・ビートと軽やかなヴォーカルがナイス。ギター・ソロは故・松原正樹か。<バカンスの終わりに>は、達郎さんらしからぬ甘酸っぱいメロディ・ラインで、アイドルへの提供曲を意識した職人的ライティングが窺える。

他にも、アン・ルイスあたりが歌った方が似合いそうな、後藤次利のロック・チューン<アイ・セイ・グドバイ>、中山美穂や早見優、WINK、時任三郎や哀川翔など幅広く楽曲提供したシンガー・ソングライター:馬場孝幸のペンによるメロウ・ボサ<さよならジェット・プレイン>、伊豆一彦が書き下ろした西海岸ポップ・メソッドに則った<ロープ・ダンサー>やセンチなダンサー<シンガポール・ナイト>などが興味深く。アルバム・タイトル曲のバラード<パーティー・イズ・オーヴァー>は、シングル・カットもされたおとなしめのバラード。きっと女優を始めたからだろう、語り中心の曲があったり、大人っぽいワルツやラテン・ポップの衣を纏ってみたりと、脱アイドルのトライアルが随所に。ボーナス曲には、本作から半年後のシングル『LADY』も。これは尾崎亜美の詞曲、鈴木茂アレンジによる良質ポップ・ソングだ。

ちなみに【フィメール・シティ・ポップ名作選】では他に、白石まるみ、田中好子(元キャンディーズ)、伊藤つかさ、石野真子、荻野目洋子、松本伊代、萬田久子、鷲尾いさ子、高橋ひとみ、といったシンガーたちのアルバムをピックアップ。アイドルや女優ばかりのラインアップに、「これでシティ・ポップ?」と不思議に思う方が多いだろう。それでも桜田作品の達郎さんや後藤次利のように、それっぽいミュージシャンやアレンジャーの名前がズラリ。松任谷由実、加藤和彦、大貫妙子、丸山圭子、滝沢洋一らが楽曲提供し、アレンジャー陣には松任谷正隆、新川博、井上鑑、佐藤博、鳥山雄司、そして演奏陣にはティン・パン勢やパラシュート勢、達郎バンド、渋いところで東北新幹線(山川恵津子・鳴海 寛)やDEW(倉田信雄、安川ひろし)など、いわゆるシティ・ポップ常連のミュージシャンがこぞって参加しているから、思わずチェックしてみたくなるだろう。そうした目線で選ばれたラインナップなのだ。かくいう自分ももう1枚、DEWが全面参加した萬田久子の唯一のアルバムの解説を書いている。その辺りの詳細は、ココからビクターのニュース・サイトへ飛んでみて。

なお我が家のレコ棚には、本作以外の淳子作品は一切ございません…

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