kadomatsu_ dance of life

角松敏生 Performance 2022 『THE DANCE OF LIFE』@中野サンプラザ Day2 を観た。十数本のツアーの首都圏最終公演。この日は、山本真央樹(ds)山内薫(b)鈴木英俊(g)森俊之(kyd)本田雅人(sax)小此木麻理・亜季緒(cho)のツアー・レギュラーに加え、ホーンが+3管、コーラスが曲によって+2(湊陽奈・吉川恭子)、そして中盤・アンコールにはダンサー多数、という中野スペシャル。定刻を数分回ったところで、先行デジタル・リリースされている『MILAD #1』からのインストゥルメンタル・チューン<The Dance Of Life>(ナラダ・マイケル・ウォルデンのカヴァー)から、ショウは緩やかにスタートした。(以下ネタバレあり)

しかし2曲目からはダンス・ナンバー連発。しかも3曲立て続けに『TOUCH AND GO』(86年)からというイケイケぶりで。そのあと中間部に『MILAD(Music Live Act & Dance)』関連のナンバーを挟み、終盤、シック<Good Times>をイントロにして、久しぶりに登場のラップ・チューン<Step Into The Light>へ。そのまま<Tokyo Tower><初恋>になだれ込むという、近年にはなかった怒涛のファンキー・チューン・オン・パレード。…とはいえ、当時のように若さに任せて闇雲に突っ走るワケではなく、オトナの分別がついた緩急自在のパフォーマンス。それはまさに “角松クオリティ” と呼ぶにふさわしく、キャリア40年の重みとひたむきな音楽愛の成せる業を、改めて実感させてくれた。パパゴンこと鈴木英俊による歴代ギタリストとは微妙に異なるロック・フュージョン的ギター・ワーク、森俊之によるウーリッツァー系ピアノやクラヴィネットのファンキーな鍵盤ソロとか、スキルだけではないセンスのキラメキに、ベテラン・ミュージシャンの矜持を感じた。そしてそれをシッカリとライヴの場でアピールさせる角松と、それに見事応えるレギュラー・メンバーのコンビネーションに、今一度 感服した。

ただ、そのパフォーマンスの素晴らしさに対して、『MILAD』関連のナンバーには思うところもアリ…。現時点では『MILAD』#1、#2がプロトタイプとしてプレ・リリースされているだけで、アルバムとしては未完成。デュエット曲のパートナーを替えたり、ミックスを変えたりして、試行錯誤中なのが窺える。なので今はまだ結論じみたコトは言いたくない。でも『MILAD#1』の時はデジタル・リリース直後にチェックし、すぐに当ブログに感想をアップしたのに、『MILAD#2』ではその気になれず、その後も書かないまま今に至っている。

MCで本人も言っていたが、この『MILAD』は当初、春にリリースするつもりで、それに合わせてこの『THE DANCE OF LIFE』ツアーが組まれた。でも結果として、それに間に合わせることはできずじまい。そのためライヴに詰めかけるオーディエンスのためと、おそらくはレコード会社へのエクスキューズで、プロト・スタイルの配信リリースを設定したのではないか。どんなカタチであれ、世に出す以上はそれ相応の手間と時間を費やさなければならないので、本人が望んだコトとは思えないが、選択の余地がなかったのだろう。では何故にこういう事態になってしまったのか? 

ハッキリ言えば、忙しすぎである。もっと突き詰めれば、ライヴをブッキングし過ぎたのだろう。コロナ禍でのおウチ時間をアルバム制作に当てたアーティストは多いが、彼はその時期も配信ライヴとか、可能な限りいろいろ動き回っていた。元来彼は天才肌ではなく、その時のアイディアとこれまで積み上げてきた経験値を組み合わせて前進していくタイプ。だから充実した創作活動を送るためは、相応の時間と精神的ゆとりが必要だと思う。それなのに、手を替え品を替えてライヴに取り組んでいたら、制作に支障を来たしても不思議ではない。そりゃあパッケージ・メディアが危機的状況に瀕している今、ライヴで稼いでおかないと…、という事情は理解できる。でも角松の場合、自ら「おそらく最後のオリジナル・アルバムになるだろう」なんて語っていたのだ。それなのに、最後にそんな中途半端な作りでイイの? 全身全霊を込めて、「これが僕の最後のオリジナル作品です」と自信を持って言い切れるモノを作るんじゃなかったの? ファン・クラブ会報あたりで何を宣っているかは知らないが、少なくとも自分はかつての彼自身の発言を受けて、次作が「最後のオリジナル作」になるものだと思っていた。

ヴォーカルを取っ替え引っ替えしたり、ミックスを変えたりして、試行錯誤を続けるのは、前向きなスタンスの表れである。それが今回は、図らずも制作プロセスの途中で、ひとまず世に出すカタチになってしまった。普段のレコーディングでも、何度も何度もトライ&エラーを繰り返しているのは間違いない。でも角松自身含めて多くの人が語っているように、名曲と言われる楽曲は、意外にスラスラと書けてしまうもの。アレンジやキャスティングも、まるで曲がそれを求めているように、意外にスポッ!と落とし所が見つかるものらしい。それなのに、ひたすら試行錯誤を繰り返している。とにかく現在の角松には、心と身体の余裕がないように見えてしまうのだ。自分も文章を書く人間のハシクレだけど、疲弊した時には大したアイディアは浮かんでこない。

そう思っていたら、この日のライヴで次のような論旨のMCが。カドマツ曰く、
「そこに到達してみないと、その先どうなるかは誰にも分からない。だから自分もその時になったら、もうちょっと続けよう、って思うかも…」みたいな。
オイオイ、今から方針変更に備えて煙幕張っちゃうのかヨォ〜?

もちろん、誰だって将来どうなるかは分からない。、もしその言葉が、もう少し先へ進もうとするポジティヴな意図なら、大いに歓迎したい。でも最後のオリジナル・アルバムになるかも、という覚悟は、どこへ消えてしまったの? もうこの段階で、それを言ってしまうの? それとも、夏の発売を考えればもうアルバムの最終形が見えてなけりゃならない時期だから、結局次作は、納得して終われるレヴェルには到達できなかった、というコト?? 実際その9/23~ 25日のパフォーマンスは、『TOSHIKI KADOMATSU Presents MILAD 1 "THE DANCE OF LIFE 〜The beginning〜"』という冠になっていて。アレ、いつの間にか『#1』で『〜The beginning〜』になっている。…とすると、これは最終作ではなく、さっさと “終わりの始まり” へと変更されたのか?

9月のパフォーマンスが開催されるKAAT(神奈川芸術劇場)は、1200ほどのシートの中規模ホール。いま想像するに、『MILAD 1 "THE DANCE OF LIFE 〜The beginning〜"』3daysは、おそらく角松シンパのファンで粗方埋め尽くされ、絶賛の声が寄せられて成功するに違いない。でもそれでイイのかな?  MILAD = Music Live Act & Danceが新たな総合芸術を目指してのチャレンジならば、言葉は悪いが、コア・ファンの反応など二の次、三の次。角松をよく知らない演劇・ミュージカル関係者やダンス界隈の人たち、そちら系のファンたちに広く認知〜評価されてこそ、本当にMIRADをやる意味があるのだと思う。だとすれば、興行的には厳しくとも、小さなハコで1ヶ月ロング・ランを組むとか、何らかの方法で幅広い客層に是非を問う必要があるだろう。何をやってもそのまま許容しちゃう熱狂的ファンに絶賛されたって、本当の評価には繋がらない。

今回、解凍後の楽曲を抑えたセット編成が際立ち、80年代中盤の楽曲が多くなったのも、どうやらこの『MIRAD』に関係があるらしく。MCで少し明かしたところでは、どうもそのプロットが、85年頃のストリート・ダンサーの物語なのだとか。だからその頃のサウンド、つまり角松自身が最も得意としていたスタイルに回帰することになる。常々自分は懐メロ・アーティストではなく現在進行形、と言ってきたのとは正反対。でも一方で、多くのファンが望むところに正々堂々帰還する大義名分を得たワケで。こうした理論武装なんてしなくとも、もっと素直にやってイイんじゃないか?と思うが、それが40年通してきた角松スタイルならば仕方がない。ただルックスは若くても、もう実際は還暦越え。骨身を削って血を流しながら音楽を作る年齢ではあるまいし、それに代わる豊富な経験則だってある。『MIRAD #1, #2』も、時間がない分、それを頼って作っているように聴こえるし。

個人的には、旧友というコトもあり、『MILAD』を終えて曲作りの呪縛から解放され、セルフ・リメイクやカヴァーなどを楽しんで演りながら、時々「こんな新曲ができてしまいまして…」なんてお披露目するような、自然体でリラックスした姿を見たい、と思っていた。が、やっはりカドマツは自分で自分を窮地に追い込んでしまう宿命みたいだな。

それでも自分にとっての角松敏生は、若き日の音楽のメンター。その後、音楽ライターになった現在の自分にとっても、ひとつの指針のような存在であることに変わりはない。それに対して、現時点でリリースされているプレ『MILAD』は、「アンタはこんなモンじゃないでしょ?」「もっとオレにギャフンと言わせちゃってよ」と思わせる。そしてこのツアーでのライヴ・パフォーマンスが素晴らしかっただけに、完成形では彼の脚本や演出のクオリティが問われるのも間違いない。残念ながらKAAT 3 daysは、自分監修のイベント(こちらです)と丸かぶりで足を運べそうにないが、『INHERIT THE LIFE』というタイトルになるらしいMILAD完成形(一応の…)は、是非、アーティスト・キャリア最終章を掛けたラスト・トライアルにふさわしいモノにしてほしいと、勝手にエールを送らせていただく。

【Set List】
1. The Dance Of Life
2. Take Off Melody
3. Pile Driver
4. Lucky Lady Feel So Good
5. Thinking of You
6. Follow Me
7. I Wanna Wrap You Up
8. Talk To You
9. The Time Is Now
10. Dance Is My Life
11. Beams
12. 桃色の曇
13. Good Times〜Step Into The Light
14. Tokyo Tower
15. 初恋
-- Encore --
16. Let's Get Real
17. Take You To The Sky High
18. 崩壊の前日
-- More Encore
19. 夜の蝉

(P.S.)先端を追った紙飛行機は、刺さらない代わりに当たった時の衝撃が強く、かえって危険が増大した印象。皆さんはいかがかな?