ann wilson 022

酷暑の中、執筆案件や制作案件などをコツコツ消化中。ストレスフルではあるけれど、もう半月ほどはこんな調子だな。…というワケで、スカッとしたくて、ゲットしたまま放置プレイになっていたコレ、ハートのアン・ウィルソンのソロ・アルバム。彼女のソロ作はこれまでに2枚のフル・アルバム、2枚のミニ・アルバムが出ていて、これが通算5作目になる。ただこれまでの作品群は、いずれもカヴァー曲中心。でもアートワークを見れば分かるように、今作はこれまでとはちょっとテンションが違うようだ。

実際このアルバムは、7曲(日本盤はボーナス曲含め8曲)が新曲で、アンもソングライティングに関わっている。カヴァーは、スティーヴ・ルカサーも演っていたロビン・トロワー<Bridge Of Sighs>、ユーリズミックス<Missionary Man>、ジェフ・バックリー<Forget Her>、そして意外にもクイーン<Love Of My Life>を現イーグルスのヴィンス・ギルとデュエットしている。何だ、こりゃ?と思ったのは、きっと自分だけではないだろう。

アンに拠れば、このコロナ禍でツアーに出られなくなり、ステイホームの中からオリジナル楽曲のインスピレーションが湧いてきたのだとか。そのタイミングで、エンタメ系敏腕弁護士からトム・ブコヴァックを紹介され、アンとの共同制作でレコーディングが進んだそうだ。ブコヴァックはナッシュヴィルを拠点とするセッション・ギタリストで、最近ではケヴ・モーやジョス・ストーン、ブレイク・シェルトン、ドゥラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズのアーロン・フレイザー、それにバート・バカラック&ダニエル・タシアンの共演作などに参加。もう少し遡ると、ブライアン・ウィルソンやボブ・シーガー、ピーター・セテラ、ドゥービー・ブラザーズ、スティーヴィー・ニックス、ケニー・ロジャース、デイヴ・スチュワート、シンディ・ローパーなど錚々たる顔ぶれと交流があって…。また<Gladiator>や<Angel's Blues>はアンとウォーレン・ヘインズの共作で、ギターはもちろんウォーレンが弾いている。また<Bridge Of Sighs>と<Missionary Man>には、人気ブルース・ギタリスト:ケニー・ウェイン・シェパードの参加も。よくよく見れば、レコーディングはナッシュヴィルだけでなく、マッスル・ショールズにある伝説のフェイム・スタジオでも。

そうしたあたりをトータルに考えると、このアルバムでアンが演りたかったコトが浮かび上がってくる。まして来年はハート50周年で、今は別々に動いている妹ナンシーと合流し、ガッツリとハートとして活動するとか。だからつまりはハートが動き出す前に、自分がソロで演りたいことにトライしておこう、というコト。ハッキリ言ってしまえば、アンがココでトライしたかったのは70年代風ハード・ロック、要するにレッド・ツェッペリンだ。だからハートのような電波ノリの良いポップ・ロックはなく、ヘヴィーだったり、ブルージーだったり、ちょっとアコースティックだったり。そう、初期ハートにはあったけれど、80'sハートからは失せていた部分がストレートに表現されている。そう考えると、ウォーレン・ヘインズやケニー・ウェイン・シェパードがいて、クイーンやロビン・トロワー(元プロコル・ハルム)をカヴァーして、ジャケはイエスでお馴染みロジャー・ディーン…、という取っ散らかり方が、何となく一本の線で繋がってくる気がする。

…にしても、せっかく日本盤が出ると言うのに、発売元がヘヴィ・メタ系インディ・レーベルのせいか、70年代からのハート・ファン世代には、リリース情報がシッカリと届いてないようだ。かくいう自分も、発売を知ったのは結構遅く(しかもしばし放置プレイだし…)でも宣伝予算の少ないインディが、的を外したプロモーションしかできていなかったら、アーティストは悲しいよ。