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公認では通算38枚目に当たるシカゴのニュー・アルバム。これだけの長寿バンドがコロナ・パンデミックにも萎えることなく新作を届けてくれること自体、大変嬉しいし勇気づけられる。でもシカゴと名乗る以上、当然リスナーを焚きつけるモノがあるワケで、その気持ちが満たされるかというと、個人的には正直微妙。意外にイイ曲が集まったな、と感心させられる一方で、バンドらしさは薄い。シカゴらしいホーンが鳴っているから…、という問題ではなく、バンドとしての一体感、覇気が乏しい、と感じてしまうのだ。

コロナでツアーに出られず、空いた時間をアルバム制作に当てた、という裏事情は確かにあるだろう。パブリック・イメージに近いナンバーを前半に集めたためか、ピーター・セテラ〜ジェイソン・シェフの流れを汲む新ヴォーカリスト・ニール・ドネルのヴォーカル・チューンが前半、そして後半はロバート・ラムのカラーが強くなって、彼のソロ・アルバムを聴いている感覚になる。『SUBTLETY & PASSION』(03年)とか『LIVING PROOF』(12年)とか、2000年代に入ってからのロバートのソロ活動はバンド本体より良かったりしたが、今回もソロ・アルバム用に準備していた楽曲をグループに回したのではないか。<Our New York Time>なんて、<Saturday In The Park>に通じるような軽いポップ・チューンだし、マルコス・ヴァーリとの共作<The Mermaid" (Sereia Do Mar)>に、ほぅ〜!と思ったら、元はゼロ年代に書いた曲に手を加えたモノみたい。ヴォーカル割合としてはニール8曲、ロバート5曲、デュアル・ヴォーカルが1曲。

アルバム全体を俯瞰してみると、ミディアムやスロウの楽曲ばかりで、バリバリ疾走感のあるようなロック・チューンはない。デヴィッド・フォスターとのコラボ時代に比べれば、ホーンが随分活躍しているのに、実際はキーボードが後退した代わりにバックグラウンドで鳴っている感。これは急にレコーディングを始めたからなのか? あるいはロバートと、ジェイムス・パンコウ&リー・ロックネインのホーン隊とのバランスを取りつつ、ニールが歌う80'sシカゴ路線を、現行シカゴの3極とした結果なのか。何れにせよ、これだけリズム・セクションの存在感が乏しいアルバムは、長いキャリアで初めてのことだ。

実際、ロバートとパンコウ、ロックネインという結成メンバー3人以外で一番の古株が、2012年にパーカッションで加入したウォルフレッド・レイズJr.(現在はドラム)という体たらく。特にここ1年でキーボード、ギター、ベースの3人が入れ替わって、ベースはもうジェイソン以降3人目、ほぼツアーごとに顔が変わっている。このアルバム制作中にもメンバー・チェンジが進み、完成時の顔ぶれは早々に瓦解してしまった。これではもうバンドとしての一体感など保てる道理がない。ならばもう かつてのスティーリー・ダンよろしく、シカゴの正式メンバーは3人だけ、あとはツアーやレコーディングの都度、サポート・メンバーを迎えていきます、と宣言した方が、どんなにスッキリするだろうか。コロナでスタジオに全員が集まれない、なんて問題ではなく、グループとしての活動スタンス、アティチュードが問われているのだ。

一応、現在は抜けてしまったルー・パルディーニやキース・ハウランドの名があるほか、楽曲提供で関わる元サヴァイヴァーのジム・ピートリック、ブルース・ガイチ、数日前に紹介したアン・ウィルソンのソロ作を手掛けたトム・ブコヴァックや名手ティム・ピアースらギター陣、それに何故かボビー・キンボールが1曲、<Someone Needed Me The Most>にゲスト参加し、終盤で思い切りボビキンらしいフェイク・ヴォーカルを聴かせる。

一方で、重心低めのファンキーな<Crazy Idea>や、コクのあるミディアム・アッパー<She's Right>とか、あまり従来のシカゴっぽくない新生面を漂わせる楽曲があり、これがなかなか。前者はジム・ピートリック、後者は今作のプロデューサー:ジョー・トーマス他とロバートの共作で、やはりどちらもラム色濃厚。そしてそれに続いて登場するのが、前述マルコス・ヴァーリとのボサノヴァ・トラックなワケで…。ロバートとブルース・ガイチが共作した たおやかなアコースティック・チューン<For The Love>、軽やかにラストを締めるハネ系のメロウ・ミディアム<House On The Hill>と、どちらも美味しいけれど、これはやっぱりシカゴというより、ロバートがソロで演るべきナンバーではないかな。

プロデューサーのジョー・トーマスも、本来ブライアン・ウィルソンの人脈にいる人物らしく、シカゴも出演したライヴTVシリーズ:サウンドステージのエグゼクティヴを務めている。<If This Is Goodbye>と<You've Got To Believe>は、ジョー・トーマスが連れて来たと思しきクリストファー・バラン&ベンジャミン・ロマンスというコンビが曲作りやプログラムを担っている。打ち込みベースでシカゴっぽさは濃くないものの、これもバンドの新しいトライアルと考えれば面白い。そして創設メンバーの一人リー・ロックネインがイニシアチヴ を握った<If This Isn't Love>が、彼の人柄を表すような素直な出来。それこそリーが、現在のシカゴを稼働させているキー・パーソン=潤滑油のような気がするのだけれど。

何れにせよ、シカゴ史上最悪と言える間に合わせっぽいアートワークを含め、これでシカゴと言われても…、と言いたくなるアルバム。中身は決して悪くないが、乱発気味のクリスマス・アルバムみたいに、中途半端な企画アルバムでお茶を濁されるより、シッカリはっきり、聴きどころの多い作品である。でもロバートのソロなら、イヤ、“シカゴ&フレンズ” なら納得できても、“シカゴ” の金看板を掲げてコレかよ !?という気持ちが強いなぁ、個人的には。

もちろん、「いや、もう、新作が出ただけで充分…」という盲目的ファンも数多くいるでしょう。でもそれより一番悲しいのは、遂にシカゴでさえも、日本盤が出なくなってしまった、ということ。フィジカルが強い、と言われる日本だけど、海外マーケットから見たら、「いつまでフィジカルにこだわってるんだ?」と見られるらしく、縮小を続ける日本の洋楽マーケットは、もう既に世界市場には不要なモノになりつつあるのかもしれない。