ali thomson_last rodeo

40年ぶりに復活したと思ったら、
  それから2年で早くもカムバック2作目!
成熟した英国ポップのインテリジェンスに、
      甘酸っぱいオトナのセンチメント。
それをUSウエストコーストの風にさらし、
  現行テクノロジーであっさり仕上げる。
「恋のリズム」がまた鳴り出せば、
    2020年代のAOR名盤ここに誕生。


実際、カムバック2作目がこんなに早く登場したことに、驚いた人は多いと思う。でもそれはアリ自身も同じこと。『SONGS FROM THE PLAYROOM』をリリースしてどんな反応があるのか、おっかなびっくりでいたら、予想だにしなかった反応の良さに驚かされ、大きな刺激を受けたそうだ。まだ小さなファン・ベースながら、新しいリスナーもついているという。

それでもこのアルバムは、前作以上に困難なプロダクトだったらしい。もちろんコロナの影響もあって、スタジオ・ダビングが可能だった前作とは違い、ロックダウン下のフル・リモート録音だという。感情的にも精神的にもフラストレーションが溜まってしまい、何度も曲を書き直しては、自分でダメ出しを繰り返した時期も。でも制作が進むうち、コロナやその恐怖に捉われた歌詞なんて書くのはやめよう、と思い、本来の作風を取り戻した。それでも “自分らしい、自分が好きなレコードを作る” という基本スタンスにブレはないという。

アルバム・タイトル『THE LAST RODEO』に込められたのは、“ロデオに長く乗りすぎて、心身ともに傷を負った老ライダー”というアイディア。そして、“具体的な名前は出せないけど、いいメタファーだと思わないかい?” と悪戯っぽく問いかける。ミュージシャンだけでなく、アスリートや芸術家、政治家など、有名人には過去の栄光や名声にすがっているだけの老害が少なくない。何事も引き際が肝心、というコトだ。自分についても、“今後のキャリアをどうすべきか、様子を見ないとね” なんて謙遜する。でもこの新作を聴く限り、まだまだアリの創作の泉は枯渇してはいない。『SONGS FROM THE PLAYROOM』にはステキな楽曲が集まっていたが、ズバリ『THE LAST RODEO』は、前作以上にナチュラルなメロディの宝庫。アリ自身も、前作を作って自分に自信が持てるようになり、この新作を「私が書いてきた中でもベストの部類に入る」と言って憚らない。

特にお気に入りなのは、タイトル曲。スティーリー・ダンの感性をほんのり窺わせつつ、これから彼がやろうとしている多様性と音楽性を表していると思えるそうだ。また<Real World>は、旧友マーク・ジョーダンとの共作。出来上がっていた曲に何処か物足りなさを覚え、マークに相談して完成させた。バック・コーラスにはマークの歌声も入っている。

ボーナス・トラックに対しても意識が高く、コダワリを覗かせる。安易にアルバム最後に付け足すのではなく、流れを考えて、アルバム途中に挟んでくるのだ。そんな信頼にあるシンガー・ソングライター、アリ・トムソン。前作が未聴の方は、この機会に2枚併せて。