beatles_revolver box

自宅療養中につき、ビートルズ『REVOLVER』の5CDスーパー・デラックス・ボックスと何度目かのデート。やるべきコトはいろいろあれど、今イチ集中力が上がらないコトもありーので。でもこのボックス、全然飽きない。自分の場合、メイキングのスタジオ・セッションの録音を聴くと、最初は興味津々で「ヘェ〜、こういう風に構築していったのか!」なんて感心しながら聴くけど、プロセスが分かってしまえばそれで終わり。あとは完成版に戻るのが常だった。でもこの『REVOLVER』ボックスの disc2,3は、思わず繰り返し聴いてしまう。それくらいマジカルな瞬間がパッケージされているのだ。

そもそも『REVOLVER』が出た1966年というと、モノラルがオリジナルだったような時代。だから従来のステレオ・ミックスでは、ドラムが右、ヴォーカルは左、コーラスは右、みたいに極端なパンが普通で。喫茶店やレストランなどでビートルズがBGMに使われていると、座る場所によって片チャンネルの音しか聴こえず、エラく気持ち悪いことになっていた。それが今回のdisc 1 /ニュー・ステレオ・ミックスで解消。ドラムやヴォーカルがほぼセンターに固定され、スッキリと聴きやすいナチュラルなミックスになった。その上でサイケデリックだったり、ドラッギーなサウンドがヒュンヒュン飛び交ったりするので、返って臨場感が増した感じがする。

スタジオ・セッションを収めたdisc 2 / 3は、『REVOLVER』未収のシングル曲<Paperback Writer>と<Rain>を含めた15曲(<Good Day Sunshine>のみ収録なし)を、それぞれ複数トラックで収録。アルバム中もっとも過激でぶっ飛んでる<Tomorrow Never Knows>が初っ端、というのが実に興味深い。テープの逆回転やビョ〜ンと鳴り続けるドローン音、アタッキーなドラムなど、それだけアイディアが渾々と湧き出していたのだし、この曲がアルバム全体の基調を成すコトをメンバー全員が予感していたのだろう。ブラスなしの<Got To Get You Into My Life>、シタール抜きの<Love You To>なんて、ポールやジョージの頭の中で完成形が鳴っていたのだろうと思わせられるし、高速で録音してテープ・スピードを落として完成させた<Rain>とか、発想が物凄い。

最後のライヴ・ツアー直前のレコーディングで、ライヴ・パフォーマンスを考える必要がなくなったからだろう、音の実験や遊びがふんだんで、ポールのベース・ラインの凄まじさたるや、言葉を失うほど。<Taxman>とか<Paperback Wrrter><Rain>とか、ホントに名演だと思う。<Here There And Everwhere>とか<Eleanor Rigby>、<For No One>あたりの天才メロディ・メイカーぶりも言うことなし。ジョージも初めてアルバムに自作3曲が採用され、ラーガ趣味もバンドに浸透して、ノリノリだったはずだ。<Taxman>のギター・ソロをポールに譲ったのも、心に何処か余裕があってこそ為せるワザ。対してジョンは前作『RUBBER SOUL』に比べ、<Tomorrow Never Knows>以外はコレといった有名曲を残していない。ただ個人的には、<And Your Bird Can Sing>や<Dr. Rober>のような、この時期ならではのコンパクトなロックン・ロール・ナンバー、好きなんだけどね。ジョンはこの時期、ボブ・ディランの影響やドラッグ初体験などあって、少し難解な歌詞へ向かっていたようだ。またリンゴのヴォーカルでお馴染み<Yellow Submarine>の、フォーキーなジョンの弾き語りにもビックリ。

ビートルズの代表作というと、世間的には『SGT. PEPER'S〜』と言われる。でも実際に人気があるのは、ホワイト・アルバムと『ABBEY ROAD』。カナザワ的には、完成度の高さで『ABBEY ROAD』推しだけれど、ソロ・アルバムの寄せ集め的なホワイト・アルバムよりは、この『REVOLVER』の方が好みだ。なぜなら、メンバー個々が自我に目覚めつつも、グループとしての一体感をキープしながらポジティヴに進化しているから。そしてそれが当時の時代の流れと密接に結びついている。『REVOLVER』はそうした背景を意識しながら聴くと、面白さが倍増するはずだ。