charles stepney

アース・ウインド&ファイアーを筆頭に、ラムゼイ・ルイス、ミニー・リパートン、デニース・ウィリアムス、エモーションズ、テリー・キャリア、ザ・デルス…などに関わったシカゴの伝説的プロデューサー/作編曲家、チャールズ・ステップニー。1976年に46歳で早逝した彼が残したデモやリハーサル音源を23曲(日本盤はボーナス入りで24曲)集め、アルバムにまとめたのがコレだ。

日本盤の紹介文には、“事実上のデビュー・アルバム”とか、“貴重なホーム・レコーディング作品が陽の目を見る” といった美辞麗句が並ぶが、ぶっちゃけコレはアルバムとか作品と呼べるようなシロモノではない。あくまで、曲作りの初期段階にある断片的な記録の寄せ集めだ。テイクによってはまだメロディすらなく、リフを組み立てただけのようなモノさえある。基本的には、ステップニーがドンカマのリズムに合わせてピアノやキーボードを多重録音した4トラックのテープがベースになっているらしく、ローファイと呼ぶ以前の、ホーム・レコーディング黎明期の記録。パーカッションや生ドラムが入ったり、ヴィブラフォンやモノ・シンセが鳴っているトラックもあって、録音時期は定かではないが、60年代終盤から彼が亡くなる直前まで録り溜めていたものと思われる。

でもそのプリミティヴな音の断片が、妙にあったかくて、チャンと音楽していてビックリ。楽曲的に馴染みがあるのは、アースの代表曲である<That's The Way Of The World>や、『SPIRIT』に収録されている<On Your Face> <Imagination>、それにフィル・アップチャーチが60年代にインストでレコーディングし、後にミニー・リパートンを擁するロータリー・コネクションが取り上げた<Black Gold>くらいだと思われる。が、他のデモ音源集とは違って、グルーヴやメロディの訴求力が圧倒的に強い。ステップニーの看板はホーンやストリングスを絡めた重層的なアレンジにあるが、それが一切入っていない楽曲の骨格だけのような音源集でも、リスナーを耳を捉える磁場が存在している。そこが凡百のデモ集と大きく違うところ。特にラウンジーな後半に比べて、ファンキーな前半の楽曲群は、まさにステップニーのマジックが効いている。

この音源集の企画制作は、ステップニーの3人の娘たちだそうだが、時折、彼女たちと思われる喋り声や、4chのマイク・チェックと思しきステップニー自身の声が不意に飛び込んできて、それが一層の愛おしさを煽る。

今は、本格的スタジオ・レコーディングと思えるほどのサウンドがPCで簡単に創れる時代。でも40〜50年前に録られたコレを聴くと、本当に音楽に必要なモノは何なのか、それがハッキリ伝わってくるよ。