bruce springsteen_strong survive

「バカヤロー、オレはただ歌いたいだけなんだよ。全身全霊でな」
そう言って横っ面を張られた気がした。『LETTER TO YOU』以来2年振りのニュー・アルバム、それがスウィート・ソウルのカヴァー集になると聞き、もっとボスの趣味を反映させたお愉しみ作品になると思っていたのだ。もちろんそれは、あながち間違いではない。けれどボスのエネルギーが曲作りやサウンドに向かっていない分、意識が歌そのものに集中していて、ひたすら熱くストレートに歌い込んでいる。当然、中には多少歌い飛ばし気味のモノもあるし、パーティ・ソングっぽい仕上がりもテイクもあるけれど、タイロン・デイヴィスのR&Bヒット<Turn Back the Hands of Time>(70年/全米3位・R&B首位)の歌いっぷりなんて、まさに火を吹くような激唱でないの〜

取り上げたのは、以下15曲。

1.Only the Strong Survive (ジェリー・バトラー 68年)
2.Soul Days(ドビー・グレイ 99年)
3.Nightshift (コモドアーズ 85年)
4.Do I Love You(フランク・ウィルソン 65年)
5.The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore(フランキー・ヴァリ 65年)
6.Turn Back the Hands of Time (タイロン・デイヴィス 70年)
7.When She Was My Girl (フォー・トップス 81年)
8.Hey, Western Union Man ジェリー・バトラー 68年)
9.I Wish It Would Rain (テンプテーションズ 67年)
10.Don’t Play That Song (ベン・E・キング 62年)
11.Any Other Way(ウィリアム・ベル 67年)
12.I Forgot to Be Your Lover (ウィリアム・ベル 68年)
13.7 Rooms of Gloom (フォー・トップス 67年)
14.What Becomes of the Brokenhearted (ジミー・ラフィン 66年)
15.Someday We’ll Be Together(スープリームス 69年)

<Soul Days>と<I Forgot to Be Your Lover >では、ボス自身がファンだったというサム&デイヴのサム・ムーアがゲスト参加。この2曲は、ピックアップの中で一番新しい楽曲である前者、ビリー・アイドルのカヴァー・ヒット(86年)でロック曲のイメージが濃い後者と、サムのR&Bオリジネイター的イメージを拝借してテンションを高めた感がある。

とはいえ、セレクトにはあまりヒネリはなく、ソウル・ファンには結構知られたヒット曲がズラリ。ノーザン〜フィリー・ソウル系楽曲が多いのは、ニュージャージーを拠点にしていれば自然な嗜好と言える。初期スタックスのシンガーで、他より若干知名度の低いウィリアム・ベルが2曲チョイスされているのは、数少ないサザン・ソウル系レパートリーだからか。フォー・トップスも2曲入っているが、こちら<When She Was My Girl>はコモドアーズ<Nightshift>と共に、在りし日のオールド・スクールR&Bの魅力を80年代に蘇らせた楽曲として、強くボスの脳裏に焼き付いていたに違いない。特に<Nightshift>は、前年に亡くなったマーヴィン・ゲイとジャッキー・ウィルソンに捧げられた楽曲で、当時大きな話題になったので、それも意識したはずだ。しかもコレはデニス・ランバートの作曲。そのランバートの手腕で多くのヒットを放ってきたのがフォー・トップスで、<When She Was My Girl>もデヴィッド・ウルファートという白人プロデューサーが手掛けていた。その2曲がココに並んだのは偶然なんだろうけど、だからこそボスの好みがジンワリ伝わってくる。

アレンジもオリジナルに準じているようで、ホーンとストリングスを配した60年代スタイル。前述の80'sモノ2曲もそれに呼応し、他の60年代の楽曲とアレンジを馴染ませている。ボスは数曲でギターやキーボードを弾いただけで、ほぼヴォーカルに専念。でもこうしたアルバムなのに、お馴染みEストリート・バンドは不在で、ほとんどの楽器はプロデュースを分け合うロン・アニエッロの多重録音。それでも打ち込みではなく、自ら生楽器をプレイしているようなのが好感。コロナのロック・ダウン下での制作だから、仕方なかったと思うが、仮にEストリート・バンドと「せーの!」で録っていたら、更なるケミストリーが生まれていたのは想像に難くない。そこだけがチョイと残念。ただコーラス陣には、フォンジ・ソーントンやカーティス・キング、デニス・コリンズといった共演歴のあるセッション・シンガーが参加していて、思わずニヤリ。とにかく、これだけ魂の籠った熱情ヴォーカルを聴かせる73歳は、他にいないでしょう。

自分は75年の『BORN TO RUN』以降、ボスのアルバムが出れば常にオンタイムで聴いてきた。でも相当に聴き込んだ『THE RIVER』や『BORN IN THE U.S.A.』に比較すると、ゼロ年以降の作品群は重厚に感じられて、あまり深入りせず、サラリと聴き流すことが多かった。そうした意味では、今回は取っつきやすいカヴァー企画。これを機に近年のボス作品を再検証してみようか、なんて思っている。