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若干遅れて、paris match 15年ぶりのカヴァー・アルバム『OUR FAVOURITE POP 〜TOKYO STYLE〜』をゲット。前回は洋楽カヴァーだったが、今回はシティポップ・ブームを横目に見つつのJ-POP編。当然のこと誰もが知っている名曲が入っているが、デビュー22年目のキャリアに相応しく、ややマニアックなセレクトに外へ提供した楽曲のセルフ・カヴァー、時空を超えたこだわりのチョイスなど、paris matchらしさ全開のカヴァー集になった。一見スナップショット風のジャケットは、ファッション・イラストレーター:綿谷寛の描き下ろしである。収録曲は以下の通り。

1. あまく危険な香り(山下達郎)
2. 真昼の別れ(高橋真梨子)
3. 鏡の月(小原明子)
4. Pale Moon(松原正樹)
5. マイピュアレディ(尾崎亜美)
6. 夜風のインフォメーション(濱田金吾)
7. 入江にて(郷ひろみ)
8. Sun Shower (島田奈美)
9. Mr.サマータイム(サーカス)
10. WOMAN 〜 "Wの悲劇"より(薬師丸ひろ子)

正直あまり馴染みのない楽曲もあるけれど、知ってる楽曲に関しては、すぐに「これはフィットしそう」と思った曲と、「エッ、どう聴かせるの?」と意表を突かれた楽曲と。更に、思いも寄らなかったアレンジが施されたナンバーもいくつかあって、カヴァー・アルバムの醍醐味を堪能した。

例えば、ライヴで比較的オリジナルに忠実に歌っていた<あまく危険な香り>は、いきなり洒脱なジャジー・ボッサに。まるで “あまく爽やかな香り”へと変身している。最後にレコーディングしたという<マイピュアレディ>は、なんとアコースティック・ギター1本を従えただけのスタジオ・ライヴ。亜美さんの原曲がソフト・ボサなので、paris matchとの相性は良いのだが、ホンワカしたAmii's Voiceとクールなミズノマリの歌声には大きなギャップが。それをこういうネイキッドなスタイルで、マリ嬢の表現力を無理なく浮かび上がらせた。郷ひろみの<入江にて>も、林哲司作のアーベインなAORチューン。自分もこの20年、Light Mellow和モノ・コンピに入れたり、DJイベントで頻繁に選曲してきたが、それをウッドベース入りの4ビートに料理。paris matchの頭脳:杉山洋介のアイディアが光る。マリちゃんの突き放したようなヴォーカルも、so nice。サーカス<Mr.サマータイム>は、サンタナ風味を交えたアレンジが印象的だが、実はコレだけ新録ではなく、08年作『Flight 7』からのピックアップになる。エモいギターは、故・松原正樹。松っつぁん信奉者の洋介サンだから、きっとコレ、絶対入れたかったんだろうな。

その熱い想いが如実に現れたのが、<Pale Moon>だ。これは、松っつぁんの08年作『HUMARHYTHM V』に収録されていた英語詞のヴォーカル・チューン。そのオリジナル・トラックから松っつぁんのギター・ソロを抽出し、新たに作ったトラックに乗せた。こういうところに、彼らの深い音楽愛を感じる。

高橋真梨子<真昼の別れ>、(濱田)金吾さん<夜風のインフォメーション>は、楽曲テイストと彼らのシグネイチャー・スタイルがばっちりフィット。<真昼の別れ>は03年と比較的新しい楽曲だが、洋介サンと、当時のメンバーで現在は作詞などで外からブレーンを務める古澤大が、唯一揃って今回のカヴァー候補に挙げていたとか。某有名曲を髣髴させるメイン・リフに、オトナな歌詞が実にイイ。また<鏡の月>と<Sun Shower>は共に洋介さんのセルフ・カヴァーで、前者は03年にparis matchでサポートしたもの。後者は88年にアイドル・シンガー:島田奈美(現在はジャズ系音楽ライター/DJの島田奈央子)に提供し、プロデュースした楽曲で、寺田創一によるリミックスが世界的DJ:ラリー・レヴァンに注目された。近年の80'sブギー再評価で、アナログ再発された人気曲である。

そしてエピローグが、薬師丸ひろ子<WOMAN 〜 "Wの悲劇">。マリ嬢が「ユーミンの曲を入れたい」と辿り着いたのがコレだったそうで、実は洋介サンが薬師丸のミーハー・ファンだったことも露呈。ひと足先にライヴで披露したそうだが、マリちゃんはリハーサルで歌詞に入り込みすぎて、何度も泣いて歌えなくなってしまったとか。あっさりクールに軽く歌い飛ばしているような印象の歌声だけど、他の誰かが歌っても決して彼女のようには歌えない。それは、それだけ深い感情を湛えて歌っているからで、実はかなりのヴォーカル・スキルを要する。でもそれをライト・タッチでサラリと聴かせるのがマリちゃんスタイル。このカヴァー集でそれが一層浮き彫りになった。ここへきてのフレットレス・ベースのフィーチャーも、“してヤラレた” 感が強い。

シティポップのブーム到来で、折からのカヴァーばやりに更に拍車が掛かっている昨今。「もうシティポップのカヴァーは要らん」と思っている方も少なくないだろう。確かに自分も、安っぽい打ち込みと雰囲気だけのヴォーカルで作られるカヴァー・ソングには辟易としている。そのほとんどは、ただ楽曲自体の魅力に頼るだけ。匿名性が高くて本気でアーティストを売り出そうとしている風には見えないし、アレンジもチャチならアイディアも乏しい。本作みたいなクリエイティヴィ溢れるカヴァー・アルバムを聴くと、その意識の違い、手法の差がハッキリ分かる。ちゃんと自身の持ち味や魅力を発揮し、己の土俵に乗せて納得いくまで楽曲を料理している。マーケットの動向を覗き見しながら、3分間でチンみたいなジャンク・カヴァーとは、120%出来が異なるのだ。

そういうコトを書くと、またきっと「音楽は楽しければ…」という反論が出てくるだろう。でも一方的にイージーな方へ進んでいったら、シーンは腐敗していくだけ。世に氾濫する他のシティポップ・カヴァーとの違いが分かるかどうか、聴き手の耳と感性を試すくらいに研ぎ澄まされた逸品が『OUR FAVOURITE POP 〜TOKYO STYLE〜』なのである 。聴き流せば心地良く、でも聴き込めば奥が深くて、ある意味オリジナル・アルバム以上に “paris matcらしさ” を強く感じる。なお洋楽カヴァーの第1集『OUR FAVOURITE POP』も、最新デジタル・リマスター&SHM-CDで同時復刻されてます。