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世間はクリスマスだけど、こちとら午後から都内某所のレコーディング・スタジオ。制作面で関わっているシティポップ系カヴァー・アルバムの歌録り立会いだ。歌っているのは女性シンガーばかりで、選んだ曲も結構ストライクなシティポップ・チューン。でも<プラスチック・ラブ>とか<真夜中のドア>は演ってない。最近のブームで、やたらとシティポップ・カヴァーが多いけれど、名のあるシンガー/アーティストの企画作だならまだしも、取り上げた楽曲の魅力に寄りかかり、歌い手のキャラがまったく立っていないモノが多々。歌はそこそこ上手いけど…、という新人が、安っぽい打ち込みで作られたオケに乗って売り出されている。楽曲パワーで一瞬注目されても、特徴がなくカラオケ的だから、右から左、すぐに忘れ去られる。使い捨て。でもそういうんじゃ ダメなんだよ

…ってなワケで、行き帰りのクルマで聴いていたのがコレ。拙監修で復刻したばかりの門あさ美『SIMULATION』。今回のオリジナル再発8作の中で、唯一の単独初CD化。ボックスだけで出ていたタマだ。でも実のところ、コレが一番、復刻の手間とコストがかかっているのよ、実は。

印刷業界の方なわ分かると思うけど、金色の特色を使った紙ジャケットの上、エッセイを掲載した16ページのカラー・ストーリーブックの完全再現。でも価格設定は他のと一緒。

そして内容も、デビュー後はまったくライヴをやらなかった彼女に相応しく、代表曲の擬似ライヴ。だから『SIMULATION』。所属していたヤマハ音楽振興会/テイチク UNIONレーベル最後の作品で、リリースは85年末。スタッフ・サイドとしては、やり残してしまった仕事へのエクスキューズ、という意図があったか?

収録されたのは、<ファッシネイション> <Lonely Lonely> <月下美人> <美姫伝説(びきでんせつ)> <NIGHT> <お好きにどうぞ〜お好きにせめて>の6曲+序曲風オープニング。シンセとドラム・マシーンで構築した、ダンサブルなポップ・ロック・スタイルで、如何にも Mid 80'sのサウンドが鳴る。当時のピンク・フロイドやジェネシス、イエスあたりに通じるライヴ・サウンドで、オーケストラ・ヒットやエフェクティヴなギターがビジバシ飛び交う。そういえばこの頃のユーミンの壮大なスペクタクル・ライヴは、ピンク・フロイドと同じステージ・スタッフでしたね。

アレンジを担当した沙羅(Sarah)というユニットは、ちょっと謎の存在だったけれど、解説用にいろいろ調べたら、<ラジオスターの悲劇>で知られるバグルスに関わったサックス奏者ジミー中山と、<キッスは目にして!>をヒットさせたヴィーナスの那須博が組んだテクノ・ユニットで、84年にアルバムを出していた。従来のあさ美作品からすれば相当に異色な一枚。だけれど、この後東芝EMIへ移籍した彼女が高橋ユキヒロをとコラボすることを考えると、ちょっとした伏線だったのか、なんて気がする。

彼女の作品で言えば、他の7枚より先に聴くべきモノではなく、あさ美初心者にはオススメできないが、ひと通り聴いた方ならば是非。