AB'SAB'S 2
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芳野藤丸 (SHŌGUN)、松下誠、渡辺直樹・岡本郭男(スペクトラム)、安藤芳彦(パラシュート)の5人が結成したAB'Sの初期4作が、久々に復刻。かつて自分も紙ジャケ・リイシューを企画・監修させてもらったが、あれからもう約10年。最近はまた入手困難アイテムになっていた。音楽マーケットを趨勢を見ていると、CDでの復刻は今回が最後になる可能性が高いから、持っていない方はラスト・チャンスかもしれない。『AB'S』と『AB'S-2』は25日に発売済み、『AB'S-3』と『AB'S-4』は来月2月25日の発売になる。

1stアルバム『AB'S』は、83年初めのリリース。メンバーがメンバーだけに音楽フリークに大きな注目を浴び、実際に評判も高かった。ちょうどブリティッシュ・ジャズ・ファンクが注目を浴びていた時期で、その流れと、優れたセッション・ミュージシャン集団という2つの指向性が自然にブレンド。AORやフュージョン、シティ・ポップ的感覚をバランス良く合わせ持ちつつ、芳野と松下というタイプの異なる2人のギタリストを擁した、ミュージシャンシップの強い本格派バンド、という印象だった。一方でメンバーが繰り出すヴォーカル・ハーモニーも、彼らの大きな武器で。そんな、ユニークでワン&オンリーの魅力を放ったグループだった。ボーナス・トラックは、アルバムに先駆けて発売された<Girl / Django>それぞれのシングル・ヴァージョン。

続く『AB'S-2』は英国録音で、前作よりもソリッドな出来栄え。ロンドン制作のためか、プログレ好きで緻密なサウンドメイクを好む松下のカラーが強く現れた印象があるが、メンバー間にはそうした意識はなく、あくまで自然な成り行きだったよう。そもそもみんなスタジオ・ワークで忙しく、新曲も用意できていないまま飛行機に飛び乗ったとか。だから大韓航空機狙撃事件の煽りでモスクワに一晩足止めされた顛末が、すぐさま曲になったりしている。ディープ・パープルの歴史的名曲<Smoke On The Water>と同じように、偶然のトラブル遭遇が楽曲を生む、それがAB'Sにも起きていたのだ。ちなみに、この時1stの音が英国側のレーベル関係者に渡り、そこから<Deja Vu / Asian Moon>がシングル・リリース。これがUKチャートにランクインしたのは、極めて意表を突く出来事だった。ボーナス・トラックは<Morning Dew>のシングル・エディットと、2年前のベスト盤制作時に発掘された未発表音源<瞳はモノローグ>の2曲。

が、『AB'S-3』の制作前に松下誠が脱退。何か意見の対立とかトラブルがあったワケではなく、単純に自分自身の活動を優先すべきタイミングが来た、というのが離脱の理由。従って前2作のシグネイチャー・スタイルは、ほぼ維持されている。もちろん藤丸らしい大らかなタッチが前に出てきてはいるが、再びのロンドン録音と、冨樫春生(kyd)のサポート参加が松下不在をうまくリカヴァーしたか、完成度は前2作に比べてもまったく遜色はない。ここまでの3枚は、自分にとってのAB'Sそのものだ。 ボーナス曲は<Cry Baby Blues>のシングル・ヴァージョンと、12インチ盤が作られた<C.I.A.>のリミックスが2ヴァージョン。

しかし、3年のブランクを挟んでの『AB'S-4』は、ちょっと、イヤ、かなりニュアンスが違う。結成メンバーも藤丸だけで、小島良喜(kyd)、松原秀樹(b)、長谷部徹(ds / ex-The Squre)という新ラインナップ。おそらく藤丸もメンバー・チェンジしたという意識は薄く、まったく別の新しいバンドを組んだ感覚だっただろう。だから名前は後付けで、レコード会社やマネージメントからのビジネス的要望だったのでは?と推察する。88年だけに、かなり尖ったサウンドだが、メンバーはやはり凄腕揃いだから、オリジナルAB'Sに比較しなければ、コレはコレで面白い。ゲストでAB'Sと縁のある桑名晴子が2曲にヴォーカル参加。L.A.録音なので、ウォーターズ(cho)やトム・キーン(kyd)の参加もあった。

なお 1stアルバムに関しては、HMVからアナログ盤も復刻。HMVはもちろん、タワーレコードでもゲットできる(amazonでは取扱ナシ)ので、サイドバーのバナーからご検索あれ。