chuei yoshikawa #29chuei yoshikawa illusion
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日本のセッション・シーンに於けるアコースティック・ギターの第一人者:吉川忠英が、シンガー・ソングライターとして発表した初CD化含む5作品を、拙監修【Light Mellow Selection】シリーズから一挙復刻。その発売日が、来週22日に迫ってきた。

 大袈裟ではなく
 僕の半分くらいは忠英さんへの憧れでできている
 どれほど影響を受けてきたことか
 そして聴けていなかった過去の作品たち
 ここへきて僕はまだまだ成長できそうです
                (大橋トリオ)


アコギのスペシャリストとしての代表曲は、荒井由実の2ndアルバム『MISSLIM』(74年)収録の<やさしさに包まれたなら>を筆頭に、イルカ<なごり雪>、太田裕美<木綿のハンカチーフ>、海援隊<贈る言葉>、梅沢富美男<夢芝居>、ジュディ・オング<魅せられて>、山口百恵<秋桜>、山本コータローとウイークエンド<岬めぐり>、Char<気絶するほど悩ましい>に、大滝詠一や中島みゆき、美空ひばり、加山雄三等など。近年は福山雅治、夏川りみらにプロデューサーとして関わる。ポップスとか歌謡曲を厭わず、 アコギが入っている邦楽アーティストのレコードを数枚 適当に持ってくれば、そのうち何枚かに必ず吉川忠英の名があるはずだ。

そんなアコギのマエストロなのに、忠英さんのソロ活動はいささか地味。そこでシティ・ポップ・ブームが訪れたこのタイミングで、ぜひ再評価を促したいと思い立ち、この企画を持ち掛けた。今回の再発では、新たにご本人へのインタビューを敢行し、解説に掲載している。

74年作『こころ』は、全米デビューした5人組イーストを脱退した彼のソロ・デビュー作。細野晴臣、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆といったティン・パン・アレー・ファミリーが参加し、かぶれていたというジェイムス・テイラーばりの音を聴かせる。

初CD化の『街角』は、75年の2ndソロ。自身のバンド:ホームメイドの徳武弘文(g)、山村隆男(b)、山田秀俊(kyd)、島村英二(ds)といった面々と共に、前作の延長にありつつ、よりメリハリのついたアレンジを特徴とする。この頃はトム・ウェイツにハマっていたそう。ボーナス・トラック2曲入りで、うち1曲は井上陽水<白い1日>のカヴァー。

76年リリースの『CHUEI #29』は、彼が29歳で作った3作目。布施明に提供して20万枚を超える好セールスを上げた<陽ざしの中で>のセルフ・ヴァージョンを収録している。バックはホームメイドのメンバーだった徳武や島村が並行して組んでいたカントリー・ロック・バンド:ラスト・ショウ。そこに山田秀俊やムーンライダースの岡田徹が加わっている。河口湖での合宿レコーディングで、遊びに来た丸山圭子や吉田佳子もコーラスで参加。前2作のジェイムス・テイラー・スタイルよりもルーツィーで、リズム解釈はザ・バンドやエリア・コード615を髣髴させる。

初CD化となる78年リリースの4枚目が『ILLUSION』。林立夫のプロデュースで、『カモメのジョナサン』を書いたリチャード・バックの著作に着想を得て、コンセプチュアルなワールド・ミュージック的世界観を創出した。アレンジと共同プロデュースは徳武で、佐藤準(kyd)、後藤次利/高水健司(b)、浜口茂外也(perc)、ジェイク・H・コンセプション(sax)などが参加。イースト時代の旧友:瀬戸龍介とジャズ・プレイヤー中牟礼貞則のアコギ共演もある。瀬尾一三のアレンジにより、シンガーズ・スリーとテイク・ファイブの豪華共演が実現し、林が翌年デビューさせるMannaもコーラス参加している。本作発表後に出たアルバム未収シングルなど、3曲をボーナス収録。一番シティ・ポップっぽいのがこのアルバムかな。

『音の手紙』は、96年にオーマガトキから発表したソロ7作目。ヴァイオリン/キーボード奏者で、作編曲も手掛ける斎藤ネコがプロデュースしている。そのため、ネコの弦カルテットが参加したり、ネコ編曲のドビュッシー<月の光>なども。オーガニックかつシンプルな肌触りながら、実は相当に凝った作りがネコらしい。山崎ハコも作詞で名を連ねる。大橋トリオが愛聴盤の一枚に挙げていて、若い世代にも認知度が高いそうだ。

最近はソロ作やコラボ作を発表しつつ、全国津々浦々で弾き語りツアーを敢行。併行して、“アコギ亭忠助”と名乗ってギター落語で寄席にも出演したりも。これからもステキな歌とギターを聴かせてほしい。彼を“フォーク”のひと言で片付けてしまってはイケマセン