carole bayer sager_someimes

2月8日のバート・バカラック大往生によって、急に話題に上ることが増えた3人目の奥様キャロル・ベイヤー・セイガー。2人が結婚したのは82年4月で、キャロルが35歳の時(91年離婚)。セイガー姓は前夫のモノで、生名がキャロル・ジル・ベイヤーという。先日のポストにも書いた通り、作詞家と作曲家の名コンビとして多くのヒットを生んだから、イイ関係が長く続いたように錯覚してしまうが、実際は10年足らず。傍目には唐突に別れてしまった印象があった。そんな2人が、甘々の婚約時代を送った81年にリリースされたのが、この名盤『SOMETIMES LATE AT NIGHT』。奇遇なコトにそんなタイミングで、このエクスパンデッド・エディションがリイシューされた。

それこそ、“無人島の一枚” に選ぶAORファンがいるほどの、ロマンティックな大傑作。キャロルのソロ作としては、77年作『CAROLE BAYER SAGER(私自身)』、78年『...TOO (『トゥー)』に続く3枚目に当たる。特に78年作は好盤で、デヴィッド・フォスターと共作した<It's A Falling In Love>が有名。これはマイケル・ジャクソンやディオンヌ・ワーウィックらに歌われ、シティポップ代表曲:松原みき<真夜中のドア>の元ネタにもなった。他にもメリサ・マンチェスター、ピーター・アレン、ブルース・ロバーツといった周辺メロディメイカーとのコラボ多数。サポート陣もTOTO/エアプレイ・ファミリーやザ・セクションのリズム隊、マイケル・マクドナルドにブレンダ・ラッセル、デヴィッド・ラズリー、ルーサー・ヴァンドロスなど、かなりの豪華盤になっている。

それでも、この『SOMETIMES LATE AT NIGHT』の前では、ただ平伏すのみ。ノンストップで曲を繋げて愛の情景を歌い綴っていくというコンセプトが秀逸で。プロデュースをバカラックと前2作を手掛けてきたブルックス・アーサーの2人が、アレンジはバカラック中心に、フォスターやジェリー・ヘイらが手分けして当たっている。いずれも、キャロルのウィスパー・ヴォイスをどう惹き立てていくか、それを最優先させているのが素晴らしい。…と同時に、オーケストラをふんだんに使うのは、バカラックの流儀でも。70年代も中盤に入って低迷気味だったバカラックに、キャロルが「もう少しシンプルにした方が…」とアドヴァイス。その最初の成果がこのアルバムと言ってイイ。そしてそれがバカラック復活のノロシになった。

マイケル・ジャクソンがコーラスで参加する<Just Friends>では、マイケル自身もプロデュースに参画。ニール・ダイアモンドと共作した3連バラード<On The Way To The Sky>は、ニールの81年作のアルバム・タイトル曲でもあって。この曲のバック・トラックのみ、彼のプロデュースで彼のバンドが演奏している。ちなみに曲作りにはバカラックだけでなく、ピーター・アレンやブルース・ロバーツも協力。キャロルとバカラック、ブルースが3人で書いた<Stronger Than Before>は全米トップ30入りし(Adult Contemporary Chart 14位)、チャカ・カーンやディオンヌ・ワーウィック、ジョイス・ケネディらがカヴァーした。随所に参加しているリチャード・ペイジ&スティーヴ・ジョージの透明感溢れるハーモニーも、素晴らしく効果的。また<Somebody's Been Lying>は、カーペンターズ『MADE IN AMERICA』(81年)でも歌われている。

今回の拡大盤では、ボーナス・トラックとして、<Stronger Than Before><Easy to Love Again>のシングル・ヴァージョンを収録。ラジオでオンエアしやすいよう、楽曲をブツ切りにして収めた『The Carole Bayer Sager Radio Special with Burt Bacharach』という当時のプロモ盤があるが、そこに入っていたキャロルとバカラックのトーク音源も追加収録している。実はこのプラン、自分も腹案として持っていて、実際にある筋に再々発の可能性を探ってもらったが、結果NG。どうもこのIconoclassicという再発専門の新興インディー・レーベルが、先にツバをつけていたようだ。

日本では既にジュエル/紙ジャケ両方で出ているが、それももうゼロ年代のことで入手困難。バカラック訃報もあってか、この拡大盤も、再発直後からどうも供給体制が安定していないように見受けられる。そして現状では、国内盤どころか、帯・解説を付けた国内仕様盤の流通もなさそう。ならばひとまず輸入盤でゲットを狙うしかないのかな?