ben sidran_duplex

1月に出ていたベン・シドラン最新作を遅ればせながら。日本ではAOR的扱いもされるけれど、基本的にはロックとジャズとR&Bのミクスチャー。当人が敬愛するモーズ・アリソンよりファンキーで、友人ジョージィ・フェイムよりもロック志向、そしてケニー・ランキンやマイケル・フランクスよりグルーヴィー。“ドクター・ジャズ”の愛称通りの知性派だ。しかもシンガー・ソングライター素養を持つジャズ・ピアニストでもあるから、ジェイミー・カラムやウーター・ヘメルのような曲が書けるジャズ・ポップ・シンガーの系譜のルーツでも。トミー・リピューマと親しくて、ブルー・サムやホライズンからアルバムを出してきたのも納得だ。

この『THE DUPLEX』は、日本のみの限定仕様2枚組。大もとのカタチは、スタンダード・カヴァー中心の22年最新作『SWING STATE』8曲と、20年にデジタル・リリースした日本未発表のEP『WHO’S THE OLD GUY NOW?』5曲を抱き合わせたモノ。

『SWING STATE』の原案はトミー・リピューマによるもので、生前のトミーの家でピアノを気ままに弾いていたベンに、トミーがピアノ・インストのアルバム制作を持ちかけたのが発端だそうだ。ベースはビリー・ピーターソン、ドラムはプロデューサーも兼ねる息子リオ。超有名な<Over The Rainbow>のリズムの自由さとか、<Tuxedo Junction>のモダンなアプローチとか、やっぱりベンはひと筋縄では行かないな。タイトル曲<Swing State>のみベンのオリジナルになるが、これはベンの地元ウィスコンシン州が、選挙で民主党と共和党のつばぜり合いを演じるコトに由来する。

でも実は、自分の目的は、CDが出てない『WHO’S THE OLD GUY NOW?』の方。簡単に言えば、いつものシドラン節全開で、目新しさはないのだけれど、彼のアプローチやスタンスが好きというか、自分の肌に合うみたい。基本はベンと、息子リオのマルチ・プレイで作られ、曲によってパーカッションや管奏者が入る。<We The People>のみ、ベン&リオ親子と、ビリー、ポール、リッキーのピーターソン兄弟によるファミリー2組の濃厚コラボ。トーキング・ブルースみたいなヴォーカルをスイッチしたら、かなりスティーリー・ダンに近づきそうだ。

新しくはないのに、古くもならない、そんなベンの気骨を感じられる作品、と言えるかな。