boz_my time

このところ、AORのルーツについて思い巡らすコトがあったので、改めてボズ・スキャッグス。AORの原点が76年作『SILK DEGREES』だったとしても、そのルーツはもっと前にあったワケで。元々スティーヴ・ミラー・バンドに参加したり、ヨーロッパを放浪していた時期のボズは、R&Bやフォーク・ブルースを演っていて、北欧で出した1stやデュエイン・オールマンとのアトランティック盤は、その路線だった。その後71年に大手CBSと契約し、『MOMENTS』でシンガー・ソングライターとして再デビュー。CBS2作目『BOZ SCAGGS & THE BAND』ではグリン・ジョンズ制作でスワンプ路線思考を強めるも、あまりシックリ来なかったのだろう。再び軌道修正し、セルフ・プロデュースで発表したのが、この72年作『MY TIME』になる。

起用したのは、前作の自前バンドが4曲と、旧知のマッスル・ショールズ・リズム・セクションが6曲(バリー・ベケット、ロジャー・ホーキンス、デヴィッド・フッド、ジミー・ジョンソン、エディ・ヒントン、ピート・カー、クレイトン・アイヴィー ら)。そしてココから、メロウ度の高いブルー・アイド・ソウルへと踏み込んでいく。アル・グリーンやアラン・トゥーサンのカヴァーは、よりブルージーな自分のバンドで。同じマッスル・ショールズ録音でも、アトランティック盤から本作への進化は大胆で、結果的にそれだけ時代を先取りしていたことになる。ポップ・テイストもあって全米チャートに入った(86位)<Dinah Flo>は、普通にプレAORの好曲といっていい。

ボズもこれに手応えを感じたか、この路線を推進して、次の『SLOW DANCER』では、モータウンで実績のある黒人プロデューサーでソロ活動も行なうジョニー・ブリストルとチーム・アップ。ブルー・アイドではない本場のソウルの制作現場を体験し、それを白人の若手ミュージシャンに差し替えるカタチで『SILK DEGREES』を完成させる。そういう流れを作った重要作が、この『MY TIME』なのだ。でもボズは『SILK DEGREES』でもアラン・トゥーサンを演ってるから、決して日和ったんじゃない。

ボズやジェイムス・テイラーのような、キャリアの長いアーティストの歩みを追っていると、AORが形成されていくプロセスがよく分かる。耳が肥えてて相応の知識を持っているAORフリークは、無節操にSNSにプレAOR音源を貼るだけじゃなく、そうした蘊蓄や正しい情報を発信してほしいもの。そうした探究の面白さを伝えていかないと、日本の音楽シーンはホントにつまらなくなってしまうよ。