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5月に入ったというのに、いきなり訃報スタート。作編曲家・指揮者として活躍したドン・セベスキーが、4月29日、ニュージャージー州メイプルウッドで亡くなった。脳梗塞後にパーキンソン病を発症し、闘病していたという。享年85歳。セベスキーはロンドン交響楽団、シカゴ交響楽団、ボストン・ポップス、ニューヨーク・フィルハーモニック、ロンドン・ ロイヤルフィルハーモニック、トロント交響楽団など、数々のオーケストラと共演。ブロードウェイ・ミュージカルや映画のサウンドトラックなどで活躍してきた。グラミーは30回以上のノミネートで3回受賞。トニー賞でもベスト・オーケストレーションを受けている。

元々はマンハッタン音楽院で作曲とジャズ・トロンボーンを学び、トミー・ドーシーやメイナード・ファーガソン、スタン・ケントンらと共演。その後、作編曲や指揮へと軸足を移していく中でカーメン・マクレエやアストラッド・ジルベルトらのセッションに関わり、ウェス・モンゴメリーが65年に発表した<Bumpin'>を機に、クリード・テイラーとの関係を構築。テイラーがCTIを設立し、イージー・リスニング・ジャズ路線を推進させ始めると、その重要パートであるオーケストラ・アレンジを任されるようになった。

その仕事ぶりは、ウェスの代表作『A DAY ON THE LIFE』や『DOWN HERE ON THE GROUND』『ROAD SONG』、ジョージ・ベンソン『SHAPE OF THINGS TO COME』『WHITE RABBIT』『BAD BENSON』『THE OTHER SIDE OF ABBEY ROAD』を筆頭に、フレディ・ハバード、ヒューバート・ロウズ、ポール・デズモンド、ジャッキー&ロイ、ジョー・ベック、ミルト・ジャクソン、アイアートなど、CTIの代表的アーティストを網羅。CTIのハウス・アレンジャーとしては、デオダートやボブ・ジェームス、デヴィッド・マシューズ、ピー・ウィー・エリスなどもいたが、その先陣を切った人だった。

セベスキーは60年代からリーダー作を出していたが、よく知られているのは、CTIでの73年作『GIANT BOX』と75年の『THE RAPE OF EL MORRO(邦題:エル・モロの強奪)』の2枚。前者はベンソンやグローヴァー・ワシントンJr、ボブ・ジェームスらを含むCTIオールスターズをフィーチャーしたLP2枚組大作で、ストラヴィンスキー<火の鳥>、ラスマニノフといったクラシックにジョニ・ミッチェル、ジム・ウェッブのカヴァー、セベスキーのオリジナルで構成している。

後者はオーケストラを2曲に留め、ランディ&マイケル・ブレッカー、デヴィッド・サンボーン、ドン・グロルニック、ウィル・リー、スティーヴ・ガッド、すなわちバンド・デビュー間もないブレッカー・ブラザーズを起用。そこにジョー・ベック、ロン・カーターらを加え、コンボ形式での録音に挑んだものだ。更に特筆すべきは、タイトル曲に起用されたジョーン・ラ・バーバラ。彼女はジョン・ケージ、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスらと活動していた現代音楽〜前衛ジャズ・シーンの女性シンガーで、フローラ・プリムに通じる異色なヴォーカル・スタイルを持つ。そんな人を真っ先に起用したセベスキーの英断が素晴らしい。彼の前には、ジャズとかクラシック、ポップス、ロックなんていう垣根は存在しなかった。

近年は、80年代からコラボし続けてきたアール・クルーを始め、ジョン・ピザレリやバリー・マニロウ、ロッド・スチュワート、シンディ・ローパー、マイケル・ブーブレ、シールなどのビッグ・バンド物やオーケストラ共演などでアレンジやコンダクターを担当。かつてのクラウス・オガーマンあたりに比べると評価・知名度ともに劣るけれど、もう少し広く知られてしかるべき才人だったと思う。

Rest in Peace...