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CWFことチャンプリン・ウィリアムス・フリーステットの最新EPのリリースが、連休明けの10日に迫ってきた。80年代ウエストコースト・サウンドに愛情を注ぐ北欧スウェーデンのギタリスト/プロデューサー:ピーター・フリーステットを中心に、シカゴでも活躍したAORのレジェンド・シンガー:ビル・チャンプリン、そしてTOTOの3代目シンガーとして活躍するジョセフ・ウィリアムスが結成したスーパー・プロジェクト。今までに『CWF』(15年)、『CWF2』(20年)とフル・アルバム2枚を出しているが、それ以前からピーターのリーダー・プロジェクト: L.A.Project としてのリリースや、ウィリアムス=フリーステットという双頭ユニットのアルバムがあり、その進化系として現在のCWFがある。

しかしジョセフが、ボビー・キンボールと入れ替わるようにして、活動再開したTOTOに復帰。近年はデヴィッド・ペイチが前線から退いたこともあって、スティーヴ・ルカサーの右腕的ポジションを固めており、残念ながらCWFへの貢献度は当初より低くなってしまっている。この6曲入りEPでも、最新録音3曲にはジョセフの参加がない。

ところがそれが呼び水となって、新しい側面が現れたのだ。タイトル曲<Carrie>は、19年にピーターとランディ・グッドラム、トミ・マルムが書いたナンバーで、本盤用に書かれた最初の楽曲。もちろんその時はジョセフが歌う曲として作られている。ところが彼の参加が難しくなり…。そこでピーターが声をかけたのが、ジェイソン・シェフ。実はこの2人、意外なことに今回が初共演だ。
「ホーン・セクションを入れたら、まるでシカゴだよね。ジェイソンのおかげで、曲がまた一段と格上げされたよ」(ピーター)

また<Carrie>と並んで推したいのが、ピーターとビル&タマラ夫妻のペンによる<Fly Away Now>だ。爽やか系のポップ・チューンで、軽いタッチながらもすこぶる完成度が高い。とりわけ歌詞の面でタマラがイイ仕事をしているそうだ。

そのタマラの提案で取り上げたのが、ビルとタマラのデュエット<The Last Unbroken Heart>。人気映画『MIAMI VICE II』(86年)のサウンドトラックからのカヴァーで、オリジナルを歌っていたのは、他ならぬビルとパティ・ラベル。そして作曲陣はジョセフとジェイ・グルスカ、作詞家のポール・ゴードン。
「ビルとタマラがデュオでギグをやる時、よく歌っていた曲だったらしいよ。メイン・ライターがジョセフだし、そういう巡り合わせってクールだよね。何より今回もビルが歌っているし。だってビルは75歳だよ。キーボードのステファン・グンナーソンも、“まるでボーイ・バンドのシンガーだ!”って驚いてた (笑) ビルとタマラは結婚して40年くらいになるけど、デュエットをレコーディングしたのは初めてじゃないかな?」

他の3曲は言わば蔵出し。そのうちビルとジョセフが歌う<Carry On>は、CWF1作目に収録された同名曲のデモである。インストの<Time Never Stop(Theme Song For Swiss Timing)>は、『CWF 2』に収録された<Amanda’s Disguise>のオリジナル・ヴァージョン。ドラムはジョン・ロビンソンが叩いている。このインストに歌詞が付いて<Amanda’s Disguise>になっていくプロセスは、是非ライナーを読んで欲しい。そしてラストには、お馴染みTOTOの<Pamela>のCWF版ライヴ・ヴァージョン。
「CWFとしての初ツアーの音源だね。ツアーが先にあって、それが事実上バンドの始まりになったんだ」

具体的には、ザ・L.A.プロジェクト・オールスター・バンド名義で日本でもリリースした『LIVE IN CONCERT』と同じ、2012年3月25日スウェーデンのヴェステロース公演がソースだと思われる。そのライヴCD/DVDでは、TOTOへの忖度か、<Pamela>は未収だった。でも日本公演もあった双頭ユニット:ウィリアムス=フリーステットにビルが加わったこの北欧ツアーは、まさにCWFの原点。“CWF”の名もこのツアーで生まれている。その由来は、ジョセフが持ち歩いていた iPad のフォルダ名。彼はこのプロジェクトの音源を、全部 “CWF”というフォルダにまとめていて、それをビルとピーターが気に入った、というコトだ。
「でもそれが定着しすぎて、ジョセフがTOTOに行ってしまったというのに、まだCWFを名乗ってるんだ(苦笑)」

これはちょっとピーターの自虐ネタ。先だってルカサーの最新ソロ『BRIDGE』のリリース情報があり、ひと足早く音を聴いたが、そこでのジョセフの貢献はすこぶる高い。その分CWFの将来が危ぶまれたりするが、引き続き3枚目のフル・アルバムに向けて、制作が続けられるという。そこには再びジェイソンも参加する予定。だから仮にジョセフがTOTOやルークの絡みで動けないとしても、その穴を強く感じることは無さそうだ。でもその際はもしかして、チャンプリン・シェフ・フリーステッドになっちゃうのかな? とはいえ、ジョセフは7月にTOTOで来るから、ピーターやビル夫妻がジェイソンを伴って年内にでも来日してくれたら、AORファンにとってそれほど美味しいコトはないのかも…