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日本では『MANEQUINN』や『BLUE DESERT』の人気から、AORアクトとして知られているマーク・ジョーダン。でも世界的な評価は、ダイアナ・ロスやシカゴ、マンハッタン・トランスファー、ベット・ミドラー、オリヴィア・ニュートン・ジョン、ジョシュ・グローバン、シェールらに広く楽曲提供しているカナダ人シンガー・ソングライター、というものだろう。 とりわけロッド・スチュワートに書いた<Rhythm Of My Heart>は、91年に全米トップ5ヒットに。思慮深い歌詞が高く評価され、彼の代名詞的存在になっている。そんなマークから、意外に早くニュー・アルバム『WAITING FOR THE SUN TO RISE』が届けられた。

ソロ作としては、新曲入りカヴァー集『BOTH SIDES』から4年ぶり。でも新曲中心のオリジナル・アルバムとなると、『ON A PERFECT DAY』以来となって、何と10年ぶりとなる。反対に奥様エイミー・スカイとの夫婦共演作『HE SANG SHE SANG』からは、たった1年しか経っていないけれど、あの時も半分はカヴァーで、残りがエイミーの書いた新曲。マークはセルフ・リメイクを1曲取り上げただけで、書き下ろしは1曲もなかった。

そうした意味では、待望の新作。でもマークはAORから離れて久しく、今作もジャジーかつシットリと落ち着いた作風。ゴージャズなオーケストラを従え、シルキーかつアダルトなヴォーカル・アルバムに仕上がっている。中心になっているのは、マークが盟友ジョン・キャペックやスティーヴン・マッキノン、今作のプロデュース&アレンジを担うピアニスト:ルー・ポマンティと共作した楽曲で、<Tell Me Where It Hurts>はブルース・ガイチとのコラボレイト。

更に最近の十八番であるカヴァー曲でも、再びセンスの良いセレクトを見せていて。取り上げているのは、ティアーズ・フォー・フィアーズ<Everybody Wants To Rule The World>、ブルー・ナイル<The Downtown Lights>に、ジミー・ウェッブ作<The Moon's A Harsh Mistress>。これは74年にグレン・キャンベルやジョー・コッカーが逸早く取り上げ、ジュディ・コリンズやリンダ・ロンシュタット、そしてウェッブ自身も『EL MIRAGE』以降、何度かセルフ・リメイクしているポップ・スタンダードだ。

演奏陣はナッシュヴィルでリズム・トラックを録っているブルース曲以外は、カナダでレコーディング。ランディ・ブレッカーがゲスト参加したのが3曲あって、ソロがそれぞれ耳に残る。メイン・ドラマーのマーク・ケルソーは、モンキー・ハウスのレギュラーでも。

日の出を待つ…というタイトル通り、時が大河のようにゆったり流れていくイメージの作風。もっとも日々の忙しい暮らしに染まってしまっている自分は、やはり耳馴染みのある<Everybody Wants To Rule The World>あたりが一番シックリきてしまうけれど…。それでもジャンル云々は別にして、相当にハイ・クオリティなアルバムなのは確か。ジャズへの傾倒を深めてからのマーク作品では、おそらく最高の出来栄えではないか。決して上手くはないマークのシワガレ・ヴォイスも、含蓄タップリに響きます。