leon ware_inside is love

17日スタートのウルトラヴァイヴ【T.K.レコード・スペシャルプライス・セール】からのご紹介第2弾は、メロウ大王こと、故リオン・ウェアの79年作『INSIDE IS LOVE』。幸いにして来日公演も見るコトができたけれど、既にこの人が旅立って6年も経っているのね…。ソウル的にはマーヴィン・ゲイとの縁も深い76年作『MUSICAL MASSAGE』、AOR的にはデヴィッド・フォスターやTOTO周辺も参加している82年作『LEON WARE(夜の恋人たち)』で語られがちだけれど、79年にT.K.傘下のFabulousに残したソロ3作目のコレも、なかなかのデキだ。

T.K.傘下の新興レーベルに移籍したのは、前作に当たる『MUSICAL MASSAGE』を出したモータウンに大きな不満を持っていたから。あのアルバムは、元々自分の作品として作っていた『I WANT YOU』をマーヴィン・ゲイに譲った見返りとして制作したモノだった。『I WANT YOU』は大成功したから、リオンはモータウンに大きなサポートを期待していた。ところがモータウンは制作費を捻出しただけで、ロクにプロモーションせず、リオンは千載一遇のチャンスを棒に振ってしまった。だから当時は羽振りの良かったT.K.グループに身を寄せたのである。

そのせいか、この『INSIDE IS LOVE』では、作風も参加ミュージシャンも『I WANT YOU』や『MUSICAL MASSAGE』とあまり変わらず、デヴィッド・T・ウォーカー/ワー・ワー・ワトソン(g) ソニー・バーク(kyd) エディ・ワトキンス(b) エド・グリーン(ds) ポウリーニョ・ダ・コスタ(perc) ウォーターズ(back-vo)etc…と、西海岸のトップ・ミュージシャンを招集。アレンジにはジーン・ペイジが参加している。きっとリオンは、敢えてモータウン時代のスタイルを踏襲し、アレはオレの仕事だった!とアピールしたかったのだろう。なおもクレジットをチェックしていくと、ケヴィン・ムーア、現ケブ・モーの名も。彼は翌80年、ケヴィン・ムーア名のまま、アーバン・コンテンポラリーな好盤 『RAINMAKER』をリリースする。

作曲陣が豪華なのも、このアルバムの特徴。<Inside Your Love>は、ミニー・リパートンの75年盤に収録されていた<Inside My Love>の改作で、彼女と夫リチャード・ルドルフ、リオンの共作。<Love Is A Simple Thing>はブラジルの才人マルコス・ヴァーリ作で、ブラジリアンAORの傑作として知られる83年作『MARCOS VALLE』に、<Tapa no Real>のタイトルでセルフ・リメイクされる。ココでの英詞は、シカゴのロバート・ラム。リオン、ヴァーリ、シカゴの面々は、この頃蜜月状態にあり、しばしば共作・共演を重ねていた。クラブ・シーンで人気が高かった込み上げ系メロウ・グルーヴ<Club Sashay>は、メリサ・マンチェスターとの共作。メリサの78年作『DON’T CRY OUT LOUD』はリオン制作だったから、その延長だろう。バック・ヴォーカルにもメリサの名前がある。好ミディアム<Love Will Run Away>は、英国の女性ブルー・アイド・ソウル・シンガー:エルキー・ブルックスとの共作。彼女はネッド・ドヒニーのカヴァーなんか歌っていたから、やはり指向性は近い。

そんな中、このアルバムからヒットしたのは、リオンが単独で書き下ろしたスターター<What’s Your Name>だ。豪奢にホーン&ストリングスを鳴らしたこのダンス・ナンバーは、79年末から80年頭に掛けてR&Bチャートにランク・イン。最高位42位と、リオンのキャリアで初にして最大のシングル・ヒットを記録した。アルバム自体もR&Bチャート62位をマーク。彼にとっては唯一のヒット・アルバムとなっている。と同時に、<Love Is A Simple Thing>や<Club Sashay>でのトロピカル・ソウル・スタイルはモータウン時代にはなかった手法であり、これ以降リオンの個性として定着していく。

一方このアルバムのリリースに前後して、T.K.グループは総帥ヘンリー・ストーンの放蕩経営の煽りで急速に傾いていく。結果リオンとT.K.の関係はコレ一作で終わってしまうのだが、彼のキャリアにあっては音楽的に重要な作品に違いない。