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50年近く眠ったままだったキャロル・キングのニューヨーク、セントラル・パークでのフリー・コンサートを完全収録したCDとDVDが、やっとリリース。題して『HOME AGAIN 〜 ライヴ・フロム・セントラル・パーク1973』。“ホーム・アゲイン” というのは、もちろん『TAPESTRY(つづれおり)』の収録曲だけれど、それ以上にこの時のキャロルの心情に寄り添ったタイトルでもある。何故なら、ニューヨークに生まれ育ち、職業ソングライターとして成功したキャロルが、公私に渡るパートナー:ジェリー・ゴフィンと別れてL.A.に移って第2のキャリアを築き、『TAPESTRY』を大成功を経てシンガー・ソングライターとして凱旋を果たしたから。ほとんどライヴを行なっていなかった彼女にとって、ニューヨークで約10万人を集めたこのビッグ・イベントの開催は、大きな喜びに他ならなかった。

このライヴ音源が世に出たのは、94年に組まれたボックス『A NATURAL WOMAN : The Ode Collection 1968-1976(私花集)』に1曲収められたのみ。しかし昨年になって突如露出が始まり、新興インディ・レーベルの会員限定でLP+DVDのボックスが発売。今年に入ってUSで映像公開、音源ストリーミングが順次始まり、日本でもWOWOWが映像オンエア。それに次いでのパッケージ化となる。

フリーコンサートが開催されたのは、アルバム『FANTASY』のリリース直前。それに合わせて組まれた北米12都市を廻るツアーのハイライトとして。ステージは約1時間で、前半はキャロルのピアノ弾き語り。後半はデヴィッド・T・ウォーカー率いるバンドが付いて、アルバム『FANTASY』をほぼ全曲披露している。

自分でフロントに立つ自信がなくて、ライヴ・パフォーマンスを敬遠してきたキャロルだけれど、ココにいる彼女は実にイキイキとして喜びに満ちている。生まれ故郷に戻ってこられた、という気持ちはもちろんだが、『FANTASY』で示した新しい音楽、ソウルやジャズを取り込んだクロスオーヴァー・サウンドを皆に聴いてほしい、そういう願いも強かったに違いない。バンド・メンバーは、デヴィッド・T.以下、チャールズ・ラーキー(b)、ハーヴィー・メイソン(ds)、クラレンス・マクドナルド(el-p)、Ms.ボビー・ホール(perc)に、トム・スコット/ジョージ・ボハノン/ディック・スライド・ハイド/オスカー・ブラッシャーら豪華6管のホーン・セクション。バンドがスタンバイしてメンバー紹介した後、<Fantasy Beginning>の弾き語りから<You've Been Around Too Long(道)>になだれ込み、バンドがリズムを刻み始めた瞬間、キャロルがニッコリと笑うあたり、互いの信頼関係を垣間見るようで…。そういえば、ピアノの前に座るキャロルのすぐ脇に、キャロルの2番目の夫でもあるチャールズ・ラーキーが控えているあたりも、何だか微笑ましく。ナーバスになるかもしれない彼女を慮る周囲の愛情が、そういうトコロに滲み出ている。そしてライヴ音源で一番唸らされるのも、実はラーキーのベース。メンバーそれぞれに聴き処が用意されているものの、キャロルとその周辺でしか名前を聞かない彼のプレイ、もっと評価するに値するのでは…?

こうして<Fantasy End>でバンドがステージを降りた後、キャロルは再び弾き語りで<You've Got A Friend>を披露、コンサートを締めくくる。プロデューサー:ルー・アドラーの狙いは、『TAPESTRY』の頃から一貫していて、普段着のキャロルを見せてリスナーに身近に感じてもらうこと。P.A.や照明の櫓に乗って危険なオーディエンスを諭すあたりにも、彼女のキャラクターが自然に表れる。最後の曲が終わると、そのままステージ裏に横付けされたリムジンに乗り込み、アンコールには応えず会場を後にするあたりは完全にスター扱いだけど、キャロル自身はあくまでソバカス顔ではにかむオキャンなお姐ちゃんのままなんだな。

だから自分としては、そういう姿がダイレクトに伝わってくるDVDをオススメ。このフリーコンサートに至るまでの彼女のキャリアをイントロにしたドキュメンタリー風の作りで、ルー・アドラーなど関係者のショート・コメントも入ってくる。それを通じて、この凱旋公演の裏側、重要性を浮き彫りにしているのだ。これはライヴ音源だけをパッケージしたCDでは伝わらない。個人的には、このDVDとCDを抱き合わせにせず、バラ売りにしてくれた点にアッパレなんだけど。当時の画質と収録時間の短さからか、無理にBlu-rayを出さないのも良心的かと。

ちなみにこのフリーコンサートでは、キャロルの前座としてデヴィッド・T・ウォーカー・バンドが出演していて、その音源も残っているはず。実際デヴィッド・Tは、ほぼ同じメンバー(キャロルも参加)で『PRESS ON』を作った時期だから、サイコーに脂が乗っている。権利者であるルー・アドラーも今年で齢90歳。音源だけでイイから、そちらも何とかカタチにして欲しいものだ。