simply red_time

名実ともに全英を代表するビッグ・ネーム、シンプリー・レッドの4年ぶりニュー・アルバム『TIME』が登場。前作『BLUE EYED SOUL』は、その名の通り、ミック・ハックネルのソウル愛が凝縮した好作で、70年代っぽい作りにそのコダワリが詰まっていた。対してこのアルバムは、ミックのシンガー・ソングライター的側面を、ギミックなしに、そのまま素直に表現している。デビュー当時のシニカルなひねくれ者のイメージが強いヒトだからか、ここまでネイキッドな作風に転じるとは、ちょっとした驚きだ。

「ロックダウンになった時、私は、一体全体、自分は本当は何者なんだろう?っという感じになってしまってね。自分を動かすものは何だろう? そして気づいたんだ。自分はソングライターだ。ならば自分が何者であるかについて曲を作ったらどうだろうかと。それがこのアルバムのエッセンスになったんだ」

なるほど、コレもまたコロナ禍のなせる業か。1stシングル<Better With You>は、ミックと奥様のなれそめがインスピレーションになっていて、アダルト・コンテンポラリーとして良くできた楽曲。ヒット・チューンかくありき、みたいに完成度が高い。続いての<Just Like You>は、前作の流れを引き継ぐようなファンク・チューンながら、オート・チューンを掛けたヴォーカルが如何にも今様。<Let You Hair Down>は、何処かマーヴィン・ゲイに通じるような、懐の深い都会派グルーヴ。そして一転して内省的な<Shade 22>を挟み、ムーディーなメロウ・チューン<It Wouldn't Be Me>へと。この前半の流れは、すぐに聴き惚れてしまったほど。

ところが後半はベクトルが変わり、突如アコースティック・ギターのコード・ストロークが鳴り出す。そしてフォーキーなバラードやロカビリー、R&Bにジャズなど、ルーツィーなサウンドに立ち返っていくのだ。でもジックリ聴けば、そういうアレンジを纏っているだけで、ミックのヴォーカルにブレはないし、シッカリとシンプリー・レッド・スタイルに昇華されている。前作がブルー・アイド・ソウルにフォーカスしたのに対し、今作はそれ以外の多彩な面を詰め込んだ、と言えるか。最初に書いたように、意外なほど真っ直ぐなヴォーカなのには驚くが、ミックも6月8日の誕生日で63歳。そりゃあ角が取れて丸くもなりますか…。

プロデュースは、長年一緒に仕事をしてきたアンディ・ライト。かつては屋敷豪太がいたことで日本人には馴染みのあるシンプリー・レッドだけれど、現在はケンジ・ジャマーこと鈴木賢司が貢献している。デラックス版には、BBCライヴの音源から3曲をボーナス収録。なのにサブスクにはレギュラー盤しか上がっていない。でもCDを生き残らせるには、こういう差別化は正しい手段かと。ようやくレコード会社もそこに気づいたのか?

シンプリー・レッドにとっては、古巣のレーベル:ワーナーミュージック復帰作でもあるけれど、現時点では日本でのフィジカル発売予定はナシ。果たしてそれでイイんですかね、ワーナー・ジャパンさん?