steve eaton

若き日をビル・ラバウンティのバンドメイトとして過ごし、
カーペンターズやアート・ガーファンクルに
楽曲提供して注目されたスティーヴ・イートン。
フォーキーなソロ・デビューから一転、
洗練された都会派ブルー・アイド・ソウルをパッケージしたソロ第2作が、
23年ぶりにCDで復活。新規ボーナス・トラック追加。


元々は知る人ぞ知る大穴盤だったが、1999年に発行した拙著ディスクガイド『AOR Light Mellow』初版に掲載。瞬く間に注目され、それを機にCD化された傑作がコレである。ビル・ラバウンティと組んでいたのは、ファット・チャンスという、2管を擁す6人組。シカゴやブラッド・スウェット&ティアーズに通じるブラス・ロックをベースに、カントリーやR&Bテイストを絡ませたサウンドで、72年に唯一作『FAT CHANCE』を発表している。しかし満足にプロモーションされず解散。ソロに転じたスティーヴは、74年にキャピトルから初ソロ作『HEY MR. DREAMER』でデビューしたが、またしてもレーベルからは満足なサポートが得られず終い。しかしそこからカーペンターズが歌った<All You Get From Love Is A Love Song(ふたりのラヴソング)>、アート・ガーファンクルやライチャス・ブラザーズが取り上げた<Rag Doll>が生まれたワケで…。だから当人は、「『HEY MR. DREAMER』はアーティストとしての私には成功ではなかった。でも作家としての私には大成功だったね」と、複雑な胸中を明かしている。

実際、当時のスティーヴは、L.A.の音楽シーンに幻滅して、故郷のアイダホに里帰りしてしまっていた。そして少しばかりの手持ち資金を自宅スタジオの機材に投資し、書いた曲をレコーディングして自分のライヴで売るようにしていた。それがこの2ndに繋がる。
「前作よりもアーティスト・コントロールができるようになった。僕が共感できるR&Bのルーツに立ち返ることができたんだ」

これがフォーキー路線の1stから、より洗練されたグルーヴ感のある都会的サウンドに進化した理由。キー・パーソンは2人いて、一人はプロデューサーのフランク・マーシャル。実は彼、本来は映画界のプロデューサー/ディレクターで、『インディ・ジョーンズ』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『カラー・パープル』といったヒット作に関わった大物だ。しかもザ・バンドのドキュメンタリー『THE LAST WALTZ』にも名を連ねる、かなりの音楽好き。友人を介してスティーヴの音楽を聴くと、自ら「次のプロジェクトに参加したい」と申し出たという。ギターとストリング・アレンジで参加のフィル・マーシャル、いくつかの曲でベースを弾くマット・マーシャルは、彼の兄弟たちだ。

もう一人のキー・パーソンは、『HEY MR. DREAMER』から連続参加のリー・スクラー。スティーヴ・ルカサー、マイク・ベアード、ジェイ・ウィンディング、スティーヴ・フォアマン…といった今回のL.A.勢は、みんなリーが連れてきたそう。かくしてこのアルバムは、春風や初夏の柔らかな陽光がよく似合う、ウォーム&テンダーな傑作となった。

初CD化時にはボーナス・トラックが4曲追加されていたが、今回もその4曲はそのまま収録。更にもう2曲、スティーヴ出世曲にして代表曲、かつ自らも再レコーディングを重ねている<ふたりのラヴソング>と<Rag Doll>をボーナス追加している。こちらのテイクは、共に『WISH YOU WERE HERE』(97年録音/日本未発)からのもの。ちなみに今回明らかになったのは、このアルバムは今まで言われてきた79年発売ではなく、レコーディングが79年、発売は80年になってから、という事実。これはかのクリストファー・クロスのデビュー作とまったく同じパターンである。

今回の再復刻に関してスティーヴは、こんなコメントを寄せてくれた。
「収録曲の多くに存在するスタイルや情緒は、何年経ってもとてもよく保たれていると思う。また人々は、70年代のサウンドにノスタルジーを感じているんだと思うよ。これだけ長い間、音楽のキャリアを築けて来られたこと、そして多くの世界的ミュージシャンと仕事をし、友人にもなれたことは、とても幸運なことだと感じているんだ」

そして彼は今もアイダホ界隈の街の何処かで、週2〜3回のペースで演奏を続けている。