rick springfield_automatic

70歳代も半ばというのに、独自の道を勢い込んで走っているリック・スプリングフィールド。オリジナル・スタジオ・アルバムとしては18年作『THE SNAKE KING』以来5年ぶりとなる新作『AUTOMATIC』が、なかなかイイ。今ドキにしては珍しく、全20曲収録でほぼ60分というヴォリューミーな内容。アナログ対応でやや短い収録時間/曲数のアルバム制作が主流になってきた昨今では、少々トゥ・マッチに感じてしまうが、10年くらい前にサーヴィス精神旺盛な濃厚ライヴ・パフォーマンスを観て以来、そのチョッと濃いめのキャラがリック・スプリングフィールドの特徴なのだ、と理解。俳優歴も豊富なだけに、「今回もやっちゃってるなァ〜」と面白がっている。

ここ数年は、オーケストラとの共演によるセルフ・リメイク作『ORCHESTRATING MY LIFE』とそのライヴ・アルバム、80年の出世作『WORKING CLASS DOG』の40周年スペシャル・エディションとその再現ツアー、更に下積み時代にレコーディングしたもののずーっとお蔵入りしていた『SPRINGFIELD』(74年作)をリリースと、キャリアを整理するような動きを展開。ファンを喜ばせていた。おそらくはコロナ対応の意味もあったと思われるが、一方でコツコツとこのアルバムを作っていたらしい。クレジットを見ると、作編曲、パフォーマンス、プロデュースは、すべてリック自身。女性シンガーのウィンディ・ワグナー、過去作にも参加したことがあるセッション・ベース奏者マット・ビソネットが手を貸している他、シンセ・ダビングやコーラス陣、ホーン・セクション以外は、ほぼリックのワンマン・パフォーマンスっぽい。

リック自身は、「フックのある3分間のソリッドな楽曲」を作るべく、『WORKING CLASS DOG』と『TAO』(85年) の中間のようなスタイルを目指したとか。すなわち、ギターをメインにしたパワー・ポップ、鍵盤主体の典型的80'sサウンド、その二本立てへの回帰を狙っている。実際に聴いた印象も、『TAO』や『ROCK OF LIFE』(87年)の頃を髣髴させながらもかなりエッジィな今風感覚で、そこにもっと軽いノリのパワー・ポップ・チューンが織り交ぜられた。

ただ彼の真面目な性格が災いしてか、引きの楽曲が少なくて、終始アグレッシヴに押しまくる。ベクトルは本人の意図した通りではあるけれど、アコースティック・チューンやバラードでさえ、音数や音圧を詰め込みすぎ。<She Walks With The Angels>や<This Town>、<Make Yoir Move>とか、イイ曲は少なからずあるのに、アルバム全体がフル・スロットルでメリハリに乏しく、各曲の魅力がぶつかり合って相殺されてしまった感じ。こういうところは、ホンの僅かな匙加減や曲の並びで互いに引き立て合うコトができるはずだから、もったいないなぁ〜。リックの周囲には、信頼できるプロデューサーとかディレクションできる人が居ないのだろうか? 

個人的に気に入ったのは、フォーキー・ソウルな<Works For Me>、ダリル・ホール&トッド・ラングレンが喜んで演りそうな<Someday I Will Fly>、デジタルなミッド・ファンク<Feed Your Soul>といった、このアルバムでは変化球に当たるようなナンバー。ハンドクラップやラッパが軽快な<Come Said The Girl>なんて、思わずカトリーナ&ザ・ウェイヴスの全米トップ10ヒット<Walking On Sunshine>(85年)を思い出して、腰が浮いてしまった。作品のポテンシャルや方向性は全然悪くないのだから、あとはチョッとしたバランスで、もっともっと良くなる。でもリックらしい力作なのは、100%間違いないな。