bettye lavette

これは途轍もなく素晴らしいロッキン・ソウル・アルバム。6月にリリースされていたんだけど、うっかりオーダーを忘れていたら、9月頭にタツローさんがサンデー・ソングブックでオンエアし、アッという間にオンライン・ショップから消えてしまった。ジャニーズ問題でいろいろ叩かれていても、やっぱり音楽的な信頼度はピカイチ、氏の右に出る者はいないのである。

このベティ・ラヴェットは、ティーン・エイジャーの頃からレコードを出していた齢70代後半の超ベテラン・シンガー。80年代にはモータウンからアルバムを出しているけれど、評価が確立したのは、還暦近くなってからのゼロ年代半ば。ジョー・ヘンリーのプロデュースで、ロックやカントリー系の楽曲を年季の入ったR&Bスタイルで歌うようになってからのハナシだ。

それからはもう絶好調。10年には『INTERPRETATIONS:The British Rock Songbook (ブリティッシュ・ロック解釈)』なんて傑作カヴァー盤が生まれたし、その後はローリング・ストーンズの現サポート・ドラマーにして名プロデューサー:スティーヴ・ジョーダンと組み、ボブ・ディランのカヴァー集『THINGS HAVE CHANGED』(18年)、“Black Lives Matter”的楽曲を集めた『BLACKBIRD』(20年) を発表。好調ぶりを堅持している。そして今度の新作も、連続3作目となるスティーヴ・ジョーダンのプロデュース。テーマは何と、ランドール・ブラムレット作品集だ。

ランドール・ブラムレットは、グレッグ・オールマンやスティーヴ・ウィンウッド、ボニー・レイット、ロビー・ロバートソン、エルヴィン・ビショップなどとのセッション・ワークで知られるマルチ・ミュージシャンにしてシンガー・ソングライター。70年代中盤に2枚のソロ・アルバムを出した後、元オールマンのチャック・リーヴェル率いるシー・レヴェルに加入。80年の解散後はセッション活動に転じ、90年代終わりから再び10枚以上のソロ作をコンスタントにリリースしてきた。日本では知る人ぞ知る存在で、スワンプ・シーンではミュージシャンズ・ミュージシャン。

ベティが彼の曲を初めて取り上げたのは、15年作『WORTHY!』の<Where A Life Goes>が最初。今作収録曲の大半が、ブラムレットの90年代以降のソロ作からのカヴァーで、いくつかの楽曲はシー・レヴェルでも一緒だったデヴィッド・コージーとの共作になる。演奏陣にもスティーヴ・ジョーダン以下、ピノ・パラディーノ (b), レオン・ペンダーヴィス(kyd), タワサ・エイジー/シンディ・マイゼル(cho) なんて名前があり、ゲスト的にレイ・パーカーJr.、スティーヴ・ウィンウッド、ジョン・メイヤー、ジョン・バティステなど。書き下ろしと思われる<Sooner Or Later>でミック・ジャガーみたいに歌っているのは、ナンとアンソニー・ハミルトンだ。

シンガーとしての立ち位置、シャガレた歌声は、ちょっとティナ・ターナーにも近い気がするけど、ベティはエンターテイナーではなく、もっと実直で生真面目。ティナとはまったく異なるベクトルで、オールド・スクールなロックやカントリー・ソングにコミットしている。シャウトはしないけど、切々と訴えるような歌いクチで、その説得力がスゴイ。還暦近くで花が咲くシンガーはかなりの少数派だけど、彼女のような含蓄のあるスタイルには、相応の年輪や経験値が必要と言うコトか。しかも、かなりマニアックなソンググライターにスポットを当てて、自身の目線の確かさまでアピールしちゃう。ストーンズとセットで聴きたくなるような、とてもイカしたオバハンです