paul rodgers

世間的にはローリング・ストーンズのニュー・アルバムで盛り上がっているが、自分的にはコレ、元フリー、元バッド・カンパニーの伝説的シンガー:ポール・ロジャースの、実に24年ぶりとなるオリジナル・スタジオ・アルバム『MIDNIGHT ROSE』。ジミー・ペイジと組んだザ・ファーム、なんてのもあったけど、現在はフレディ・マーキュリー没後のクイーンで歌ったヒト(名義はクイーン+ポール・ロジャース)、というイメージなのかも知れない。

正確に書いておくと、ポールのソロ作としては、14年作『THE ROYAL SESSIONS』以来。しかしアレは、メンフィスにある名門:ロイヤル・レコーディングス・スタジオで所縁の曲をカヴァーするというシロモノだった。だからオリジナル新曲を中心とした作品となると、90年代にまで遡ることになる。

でも厳しいコトを書けば、ザ・ファーム解散後の80年代後半以降は、名シンガーとしては些か寂しい仕事っぷりで…。『THE ROYAL SESSIONS』やマディ・ウォーターズのカヴァー集など、話題に上がるのはそうしたR&Bカヴァーなどの企画モノばかり。バッド・カンパニーのリユニオンやフリー時代の曲を歌ったライヴ・アルバムはあったけれど、ソロ作品としては未だ大きな仕事を成したとはいえない。クイーンとのジョイントは意外に高く評価している自分だけれど、それは、ブライアン・メイやロジャー・テイラーがあのタイミングでクイーンの看板を引き継いでいくには、クイーンの楽曲を単なる素材として突き放すように扱い、フレディという類まれな個性から引き剥がす必要があったから。それには超絶的実力派ながら、フレディとは180度異なる持ち味の、このブルー・アイド・ソウル・シンガーが不可欠だった。そういう時期があったからこそ、現在のクイーンはフレディと個性が被るアダム・ランバートを迎えることができるのだ。もっともポールにしたら、友人であるブライアンを助けるために参加した、ぐらいの感覚のはず? だって彼のスタイルを考えたら、クイーンなんてまったく余計な回り道に過ぎないから。

最近は重病説もあったポールだけれど、このアルバムを聴く限り元気溌剌。参加メンバーと共作した1曲を除いて、すべてポールの書き下ろしが占める。現在はカナダ在住なので、レコーディングもカナダのブリティッシュ・コロンビア。プロデュースは、メタリカで有名なカナダ人プロデューサー:ボブ・ロックが務める。録音メンバーは現在のツアー・バンドの面々らしく、ほとんどがカナダ人のようだ。でもそんな中にポツンと、チャック・リーヴェル(kyd)が2曲参加していたりするから嬉しい。

まぁ、フリーとかバッド・カンパニーとかの往年の名グループ代表作に比べてしまうと、さすがにナニだけど…。でもかなりの力作なのは確か。新しいモノなど何もないが、<Living It Up>なんて若いバンドが裸足に逃げ出しそうなハード・ロック・チューンがあるし、ポール在籍後期のバッド・カンパニーみたいな風情がそこかしこに顔を出す。そこへポールらしいUKトラッドや英国産カントリーの香りをまぶした感じ。そうしたフレイヴァーは、70年代英国ロッカーの多くに共通しているモノだった。

アートワークにあしらわれたフォトは、ポールの思い出の品やお気に入りのグッズで、その中にポール・コゾフ、ミック・ラルフス、ジミー・ペイジのギターがあしらわれている。でもってリリース元は、エルヴィス・プレスリーを輩出したメンフィスの伝説、サン・レコード。サンは昨年創立70周年を迎えたそうで、アナログ盤を出したり、Tシャツなどのグッズを販売するなど、積極的なビジネス展開を図っている。もしかしてポールとの契約も、そうした動きの一環なのかな? 何れにせよ、ソロに転じた30余年の集大成的作品、そう言って良さそうな充実作。フリーやバッド・カンパニーにお世話になった覚えのある人は、シッカリ聴いてよ。