floraブラジリアン・フュージョン界が誇るベテラン・シンガーにして、名パーカッション奏者Airto Moreiraの奥様でもあるFlora Purim。来月、彼女の70年代最終作『CARRY ON』が輸入盤日本仕様(帯・解説付)でリイシューされることになり、その解説を書くため、おととい〜昨日とFloraの歌声にドップリ浸かっていた。

Floraといえば、夫Airtoと共にChicK CoreaのReturn To Forever結成に参画し、あの浮遊感抜群の個性的ヴォーカル・パフォーマンスで一躍世界中に名を知られるようになった女性。ブラジル音楽とU.S.ジャズ・シーンを結びつけ、クロスオーヴァー/フュージョンの黎明に強い影響を与えた人でもある。昔はイメージ的にAirtoの先見性に乗って一緒に行動しただけだと思っていたが、彼女の70年代のアルバムを聴き進めていくと、やっぱり彼女自身に才覚があったと思い知らされる。何でもあの特異なヴォーカルは、Airtoのブラジル時代からの旧友エルメート・パスコアールの指導の元で、彼女自身が編み出したものとか。時に前衛シンガーだったオノ・ヨーコさんの“雄叫び”にも通じるモノを感じるが、Floraの場合ははやりブラジルならではのプリミティヴな感性から来るのだろう。

一般的に彼女の代表作としては、前作にあたる『EVERYDAY EVERYNIGHT』が挙げられる。かのJaco Pastorius、フランス生まれのMichel Colombierと、3人の奇才が集まってコラボレイトした奇跡的アルバムだ。しかし内容は素晴らしくとも、セールス的には不振に終わった。そこでココ『CARRY ON』では、ポップ色豊かなファンキー・ジャズでメキメキ頭角を現してきていたGeorge Dukeをプロデューサーに抜擢。彼女のアイデンティティであるブラジル色を尊重しながら、一気にポップ化を推進してみせた。DukeはFloraとの付き合いが古く、彼女のワールドワイド・デビュー作『BUTTERFLY DREAMS』から継続的にアルバム制作に参加。Airto & Floraのバンド・メンバーRaul De Souza(Trombone)のリーダー作を手掛けた縁もある。そして何よりDuke自身がブラジル音楽に造詣が深く、本作翌年には『BRAZILIAN LOVE AFFAIR』という会心ソロ作を作ったりしている。

このアルバムでもGilbero GillやMilton Nascimentoといった著名ブラジル人アーティストや、当時新進だったToninho Hortaの曲を取り上げたり、またFloraの妹Yanaの曲をピックアップしたり(彼女も後にソロ・デビューする)と、感覚の鋭さを披露。その一方、自作のタイトル曲でファンキー・テイストを弾けさせたり、なぜかJeff Beckの<Freeway Jam>をリメイクしたり。売れる前のMtume作品からのセレクトなんて、かなりの隠れ好曲だと思う。この年のDukeは2枚のリーダー作をヒットさせ、他にもDee Dee Brigewaterの名作『BAD FOR ME』やBrecker Bros『DETANT』をプロデュースしている。それだけ勢いに乗って才能を爆発させていたのだろう。Floraとはセールス面での目的達成はならず、ちょっと空回りしたところもあるが、それは、まぁ、ご愛嬌ってコトで。

いずれにしても、George DukeとStanley Clarkeという名コンビの初セッションは、Floraの『BUTTERFLY DREAMS』だそうだし、Wayne Shorterのジャズ史に残る傑作『NATIVE DANCER』でWayneとMilton Nascimentoの競演が実現したのもFloraの助力あってこそとか。知れば知るほど、いろんな事実が浮かび上がってくる興味深いアーティストなのだ、彼女は。