87007358.jpg今月最後のライナーを鋭意執筆中。って言っても、締切日に書き始めてたら、入稿は遅れますな(苦笑) ネタは新人シンガーのヴィクター・フィールズ。いわゆるスムース・ジャズ系のシンガーというのが一番ピッタリくるんだけど、日本でスムース・ジャズというと、フュージョンの一形態、すなわちインストの感覚になるから難しい。

かといってジャズ・ヴォーカルというにはソウル寄りだし、R&B/ソウルにしてはAOR/フュージョン寄りだし。あぁ、ジャンル分けというのは、ホント必要悪ですな。カナザワは以前からよく主張してるんだけれど、大型CDショップは@25に特化したような売り場を作って、新しい展開を考えなさい!って。だってカナザワみたいなリスナーは、J-POP、ロック、ソウル、ジャズと、全部のフロアを廻らなけりゃ用が足りないワケよ。しかもロックのフロアで90年代以降のアーティストなんて、まず関係がない。それなのに品数が多すぎるから、なかなか目的のモノが見つからなかったりする。定期的に足を運ぶカナザワがそうだから、時々しか足を運ばないオッサン・オバハンは、なおさら右往左往しちゃう。これじゃネット通販に客足奪われるのも当然だわな〜。

でもamazonみたいなネット・ショップにも欠点がある。目的のアイテムは検索すればすぐ見つかるが、情報ツールとしては使えない。カナザワみたいに「何か面白いの出てないかな〜」なんて探し方をする時は、使い物にならないのだ。先月も某大型ショップの方と会った時に、新橋の駅前に@25に特化したアンテナ・ショップを作れ!なんて話をしたばかり。某チェーン店は高円寺にそんな店を出しているそうだが、そんな場所に出しても、所詮マニアックな音楽ファンしか集まらない。ぜんぜん分かってないよな。

ってな感じで、ヴィクター君。カシーフのプロデュースで89年にデビュー、既にインディースで計4枚のアルバムを出しているシルキーなシンガーだ。そのうち05年に出た3作目『VICTOR』と、06年作『THINKING OF YOU』の国内リリースが決定! カナザワは『VICTOR』のライナーを担当している。

でもこの人、実は結構なインテリで、元々はエリート・ビジネスマンだったそう。ところが音楽への思い立ち難く、会社勤めをしながらヴォイス・トレーナーについて歌を習ったり、作曲法を身につけた遅咲きなのだ。しかしリベラルアーツ・カレッジで学んだだけあって、勉強熱心。ベイエリアのクラブ・サーキットでは、瞬く間に人気が出たらしい。最初の2作では自作曲もあったが、今回の2作はほとんどがカヴァーや外部提供曲。シンガーに徹することで自分の魅力を凝縮すると同時に、スムース・ジャズ系リスナーのニーズをちゃんと心得ている。さすがエリート、マーケット・リサーチには抜かりがない。

この『THINKING OF YOU』で取り上げたのは、ビル・ウィザース<Lovely Day>、ブラックバーズ<Walking In Rhythm>、スティーヴィー<Creepin'>、マーヴィン<What's Going On>、ベイビーフェイス<For The Cool In You>等など。しかもジェフ・ロバー、リチャード・エリオット、リック・ブラウンといった、シーンの人気者がゲスト参加している。言ってしまえば、スムース・ジャズ系インスト奏者のアルバムに1〜2曲入っているヴォーカル・ナンバーを、全部掻き集めてきました!みたいな内容。早い話、美味しいトコ獲りなのだ。カナザワがスムース・ジャズに対して斜に構えちゃうのは、音楽スタイルに対してではなく、アーティストそれぞれの個性が薄いから。ヴィクター君の場合も、シンガーとしては決して個性派ではない。けれど、それを補う柔軟性とスキルがあって、積極的に有名曲を取り上げる。インスト・プレイヤーだと音が右の耳から左の耳へスイスイと流れていって、結局心に何も残らない、なんてコトが多いけど、彼はそれをカヴァー曲でカヴァーしてるワケだ(シャレじゃないっスヨ!)

特筆すべきは、やっぱり彼のクルーナー・ヴォーカルの魅力。サム・クックにマーヴィン、テディ・ペンにルーサーがアイドルらしく、とにかく声がやわらかぁ〜。前作『VICTOR』では、後半がジャズ・スタンダード集っぽくなるのだが、その時の歌いっぷりが彼の真骨頂だろう。こういう人が評価されてくると、お先の不安な日本のスムース・ジャズ・シーンも、多少は活気づいてくると思うんだけどね。


シンキング・オブ・ユー

ヴィクター