63d96c5a.jpg久々にスムース・ジャズの新作ネタを。普段はスムース・ジャズに否定的な視線を向けているカナザワだが、いつも書いているように、スムース・ジャズというスタイルが嫌いなワケではない。あくまでそこに巣食うミュージシャンたちの無個性化、主張の無さを嘆かわしく思っているのだ。

なので目立ったアーティストの新作なら出れば買うし、イイ作品ならば積極的に紹介していく。せっかく音楽ライターとしてこうしたブログを持ち、たくさんの方々に読んで戴いてるのだからね。ネットであれ雑誌のコラムであれ、あまりに看板と違うコトをやっていては、みなさんからソッポを向かれるのがオチだと思っている。

で、今回のオススメは、サックス奏者エヴァレット・ハープの最新作『MY INSPIRATION』。92年にジョージ・デュークのプロデュースでデビュー。キャピトル傘下のマンハッタン〜ブルー・ノート〜A440と移籍しながらアルバムを重ね、これがShanachieからの2作目、おそらく通算8枚目のオリジナル・アルバムになると思う(他に編集物あり)。よく歌うプレイが特徴で、最初は如何にもサンボーン・フォロワーといった感じだったが、15年のキャリアでタフなブロウを身につけ、ダイナミクスが加わった。今はサンボーンが内省的な世界へ行ってしまったから、ファンキー度の高いアーバン・サックスを吹かせたら、カーク・ウェイラムやジェラルド・アルブライトと共にナンバー・ワン集団の一角を占めるに違いない。

そんなエヴァレットの新作は、一切打ち込みを使っていない鉄壁のバンド・サウンド。実際にバックを固めたのも彼のツアー・グループで、そこに共同プロデューサーのレックス・ライドアウト、ゲスト陣のジェフ・ローバー、ジョージ・デューク、ブライアン・シンプソン、ドク・パウエル、ジェームス・ロイド(ピーセズ・オブ・ア・ドリーム)らが参入する。だからアンサンブルに無駄がなく、まるで磨き上げた肉体を持つアスリートのよう。コレをライヴで聴いたら、さぞ強力だろうな。

最近は安っぽいカヴァー・アルバムばかり連発しているShanachieだけれど、ココではカヴァーを1曲に抑えたのもナイス・ディレクション。ちなみにそのカヴァーは、デニス・エドワーズの名曲<Don't Look Any Further>。チョイスもアレンジも悪くないけど、どうせなら思い切って全曲オリジナルで勝負すべきだったか。やっぱりこの曲だけ、若干テンション下がってる気がするのはオレだけ?

ちなみにこのアルバム、今年亡くなった彼のお父さんに捧げられている。エヴェレット自身が歌う唯一のヴォーカル曲が、そのままアルバム・タイトルに。それゆえ、彼もこれまで以上に丹誠込めてアルバムを創り上げたのだろうな。その成果は、シッカリとコチラにも伝わって来る。

うーん、こんな完成度の高いスムース・ジャズ・アルバムは、カナザワ的には久し振りかも。それこそBWB以来のヘヴィ・ローテーションかも知れない。けれどこのエヴェレットの新作もBWBも、プログラミング主流の王道スムース・ジャズからは外れているワケで、そのあたりはどうなんでしょ?。やはりカナザワの嗜好が本筋から逸れているのか、あるいはスムース・ジャズも曲がり角なのか。ま、中身が良ければ、スムース・ジャズであろうとなかろうと、どっちでもイイんですけど。

そもそも日本では、スムース・ジャズと言ったって、もう笛吹けど踊らずなのが明白で。そろそろ今までの売り出し方を転換していかないとヤバイんじゃないの? 十把一絡げのままで行ってたら、ホントにリスナーに届けるべき作品まで見過ごされちゃうようになっちゃうよ。