f7c4f87b.jpgこれは途轍もなく美しいアルバムだ。『SMILE』のお蔵入り以降、迷走状態が続いたビーチ・ボーイズの中で、遅ればせながら曲作りに開眼したデニス。しかし彼の曲は、バンドの音楽性にヴァリエーションを与えはしたが、決して中心にはなり得なかった。そうこうするうちに、バンドはどんどんノスタルジックな方向へ進んでいき、次第に人気を取り戻すようになって…。かくしてデニスはそのハケ口を、ソロ・アルバムの制作へ向けるようになる。

とはいえ、そこは奔放な性格のデニス。出来上がった曲の数々をレコーディングさせるべく準備し、アルバムにまとめていったのは、当時のプロデューサー:ジェイムス・ウィリアム・ガルシオだった。それにしても、83年に39歳で溺死したデニス唯一のソロ作が、これほどの名盤だとは思わなんだ。

正直言ってカナザワは、ビーチ・ボーイズ門外漢。一応アルバムはほとんど持っているし、紙ジャケもせっせと買い直している(←アホ!)。でも世紀の名盤とされる『PET SOUNDS』でさえ、世間一般で言われているほど魅力的だとは思っていない。だけどあまり評価の高くないデニスのソロには、激しく反応してしまった。

ここに紹介するのは、発売されたばかりの2枚組レガシー・エディション。最初に出たCDはとっくの昔に廃盤で、近年はかなりのプレミア価がついていた。それゆえカールの2作品はゲットできたカナザワも、デニスのソロはなかなか手に入れられず、ロクに聴けないまま今まで来てしまった。それがこのレガシー・エディションでは、ディスク1にオリジナル・アルバム+未発表曲5曲、ディスク2にはソロ2作目として制作されながら陽の目を見なかった『BAMBU』セッションと、『PACIFIC OCEAN BLUE』セッションの残りテイクを、お腹いっぱい聴くことができる。

まだこれが2回目のプレイだが、ぶっちゃけ、ビーチ・ボーイズ関連の作品の中で、カナザワが最も好きなアルバムになりそう。おそらく、オリジナル盤リリースからちょうど30年目に出されたこの拡大版で、若くして散ったデニスの才能を惜しむ声が大きくなってくるはず。それこそ、デニスのしゃがれ声と壮大なストリングスが、いつまでも耳にこびりついて離れないのよ。