wayne _shorterマイルス・デイヴィス・グループからウェザー・リポートと、ジャズ・フュージョンの花道を歩いたウェイン・ショーター。スティーリー・ダンの<Aja>というと、スティーヴ・ガッドの名演で知られるけれど、ショーターの思慮深いプレイも忘れることができない。そのショーターのソロ代表作と言えば、間違いなく74年録音の本作。ジャケにも“フィーチャリング・ミルトン・ナシメント”とあるように、豊かなブラジル色を湛えた、とてもイマジネイティヴな傑作である。

そんなアルバムを、カナザワがどうしてこのタイミングで手に取ったかというと、やはりアース・ウインド&ファイアー絡み。彼らの音楽性をシッカリ認識している方ならば、E.W.&F.がアフリカやエジプト的な視覚イメージを構築していく一方で、実際はブラジル音楽を上手に昇華していたことを理解されているだろう。それが顕著に表れたのが、77年作『ALL'N' ALL(太陽神)』。そこにはアレンジでデオダートやカルデラのエディ・デル・バリオが参加していた。そしてインタールードとして、かの<Brazilian Rhyme>が使われている。テイク6やマーカス・ミラーのカヴァー、フージーズ、ブラックストリート、ア・トライブ・コールド・クエストあたりのサンプリングが有名だけれど、資料に拠れば、Mr X & Mr Z 、T.C.エリス、ジャグド・エッジ、ロスコー等など、かなりたくさんのネタ使いがある。

ところがこの<Brazilian Rhyme>、皆さんが<Brazilian Rhyme>だと思っているであろう<Brazilian Rhyme>が、実は本当の<Brazilian Rhyme>ではないことをご存知だろうか。

この<Brazilian Rhyme>は、『太陽神』の中で2つのパターンで挿入されている。ひとつは<Love's Holiday>と<I'll Write A Song For You>の間奏曲になっている、フィンガー・スナップを効かせたアップ・テンポのもの。フィリップ・ベイリーの美声スキャットでお馴染みのヤツだ。そしてもうひとつは、<Runnin'>と<Be Ever Wonderful>を繋いでいるスロウなテイク。近年盛んにソース使用されているのは、もちろん前者の方である。

さて問題はココから。アルバム『太陽神』では、この両方がミルトン・ナシメントの作品とクレジットされている。だから<Brazilian Rhyme>のネタ使用者の多くは、これがミルトン作品と思い込んでいるようだ。当然それを普通に聴いている一般リスナー、評論家とか音楽ライター筋のような業界人も、また然り、である。

ところが、実際にミルトンが作ったのは後者の方だけだ。その初出が、ミルトンがゲスト参加したこのウェイン・ショーターのアルバム。E.W.&F.が<Brazilian Rhyme>とした楽曲の本当のタイトルは、<Ponta De Areira>という。E.W.&F.のヴァージョンは、うっすら敷かれたストリングスの上で、フルートとピアノがリリカルにメロディを奏でるのに対し、ウェインの方はミルトンの純朴なヴォーカルをフィーチャーし、夕陽が海に沈んでいくような大らかなイメージを想起させる。彼は翌年、自分のアルバム『MILTON』でもこの曲を取り上げ、ブラジルではかなりポピュラーな曲になっているそうだ。

では、皆さんが<Brazilian Rhyme>と思っているのは何か??  その答えは、E.W.&F.が92年にリリースした3枚組ボックス『THE ETERNAL DANCE』にある。そのブックレットによれば、楽曲タイトルは<Beijo>。書いたのはE.W.&F.総帥モーリス・ホワイトらしい。このハコには<Ponta De Areira>も原タイトルで収録され、こちらにだけ<Brazilian Rhyme> のサブ・タイトルがついている。すなわち、一般的でない方の<Brazilian Rhyme>が、本当の<Brazilian Rhyme>なワケだ。あぁ、ヤヤこしい…

そもそも<Brazilian Rhyme>というのは、ブラジルの韻=ブラジリアン・テイストの…、という程度の意味で、正式な楽曲タイトルではなかったようだ。それを両方ともミルトン作とクレジットしたことから、要らぬ誤解が生まれた。『THE ETERNAL DANCE』で、<Ponta De Areira>と<Beijo>を区別したのも、その誤解を解くという免罪符的な意味合いがあったからだろう。

ただ多くの人々が誤解している中で、マーカスはシッカリ<Brazilian Rhyme>の名を使いながら、作曲クレジットをモーリスとしている。ウ〜ン、さすがクレヴァーな人だわ。またショーターとミルトンを結びつけたのは、本作にも参加しているハービー・ハンコックだとか。パーカッションのアイアート・モレイラ参加は至って自然な流れだが、ギターがジェイ・グレイドンというのは、ちょっと意外な符合かも。