chicago36
デビュー45周年を迎えたシカゴ、『XXX』から8年ぶりのオリジナル新作『36:NOW』が素晴らしい。邦題タイトルに敢えて “NOW” と掲げたのは、単純に<Now>という曲があるからではなく、この曲が今のバンドの状態を端的に表しているからだろう)。“歌いたい曲があるなら、いま歌うんだ”というフレーズは、まさに彼らが往年のエネルギーを取り戻したことを示している。オリジナル・メンバーの年齢を考えれば、グループの寿命は決して長くないのは自明の理。彼らは有終の美を飾るべく、最後の全力疾走を始めた。

割と短期間で一気に完成させた前作『XXX』は、シカゴが久々に純新作に取り組んだというだけでも、充分価値があったと思う。ただその内容は、悪くはないもののベストにはまだ届かず、といったところ。その後再び企画モノを連発し始め、更にはビル・チャンプリン脱退で一抹の不安を感じさせたが、今回は新しいレコーディング・システムの導入が成功。メンバーがキッチリ揃ってスタジオ入りするのではなく、ツアーに持って出られるポータブルなレコーディング・ユニットを駆使して、楽曲提供したメンバーがそのまま曲ごとに制作を担う形で制作が進められた。

これだけの大所帯、年齢も違えば新参もいる中では、自ずと新作に対するモチベーションも違ってくる。しかも中には、体調がすぐれず長期ツアーに帯同できないメンバーも。長い間、企画盤だけで茶を濁して新作を作らなかったのは、そうしたメンバー間の温度差が大きかったからだ。しかし『XXX』で露払いができたのか、あるいは “もう時間がない” と危機感を募らせたか、コンセンサスの醸成を待たずにメンバーがそれぞれのスタンスで新作に関われるフォーマットを作ったことで、この快作が生まれた。故に現行9人の正式メンバーが揃って参加している楽曲は少なかったりするが、とにかくいま一番重要なのは “シカゴとして新作を出すこと” だったのだと考える。

前述の<Now>は、歌詞だけでなく、プロダクト全体が本作のシンボルだ。この曲の中心にいるのはジェイソン・シェフだが、新加入のルー・パーディーニや実質的リーダーのロバート・ラムも仲良くリード・ヴォーカルを分け合っている。その一方で、ベースはE.W.&F.のヴァーダイン・ホワイト、Kydはフィリップ・セス、ギターにはデヴィッド・ウィリアムスとマイケル・オニールが参加。ホーンも実はメンバーではなく、ハリー・キムのセクションが吹いている。このように、半ばプロジェクト化したシステマチックな手法で完成された作品なのだ。古くからのファンには一抹の寂しさもあろうが、悪戯に結束を待って無駄に歳月を過ごすなら、この方がよっぽど健康的。だったら、ビル・チャンプリンをメンバーから外したのは何だったのよ?、という気もするが、今は後任のルーもスッカリ グループに馴染んでいるので、まぁ良しとしよう。

…というワケで、内容的には『XXX』よりも、『CHICAGO 32』としてようやく陽の目を見た『STONE OF SISYPHUS』に近い印象。ロバートもボサノヴァ調の曲を持ち込んだりして、快調なソロ活動との関連を浮かび上げる。ズバ抜けたキラー・チューンこそないものの、アルバムとしてのクオリティは『16』以降で一番かも、とカナザワは思っている。

そうそう、現在配布中のタワー・レコードのフリーペーパーBOUNCE7月号でも、4ページに渡すシカゴの記事を書いています。