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和モノ・ライトメロウ/J−AORのトップ・リコメンド・アーティストの一角、ケン田村の2作品が、ようやく揃ってCD化される。2nd『FLY BY SUNSET』は05年に一度リイシューされているが、1枚だけの片肺再発に、ずーっと忸怩たる想いを抱いていた。まぁ、無名のまま消えてしまった人だけに、“とりあえず” という気持ちも分かるが…。とにかく、そうした満たされない想いを払拭してくれる2作同時リイシュー。しかも初CD化となる1st『Light Ace』には、アルバム未収曲やテイク違いのシングル・ヴァージョンまで収録されている。これでケン田村のソロ楽曲は、すべて再発されることになった。

ケン田村ことケネス・タムラは、福岡・板付生まれの日系2世。日本でアメリカン・スクールを出た後、家族と共に渡米してカリフォルニアの大学に通い、日本デビューを飾った。契約への流れは不明だが、早くも74年、寺尾聰に<ほんとに久しぶりだね>を提供。その後、太田裕美や野口五郎、あいざき進也らに曲を書いている。どうも筒美京平大先生のお眼鏡に適い、サポートを受けていたようだ。

81年発表の『Light Ace』に付けられたキャッチコピーは、“ウエストコーストからすごい男がやって来た”。実際のレコーディングもL.A.で行なわれ、ユーミンや尾崎亜美とも共演しているマイク・ベアード(ds)、現スティーヴ・ミラー・バンドのケニー・ルイス(b)、少し前にビル・ラバウンティと来日していたマーク・ジョーダン(kyd/カナダのシンガー・ソングライターとは別人)、元マザースのイアン・アンダーウッド(syn)、リー・リトナー&ジェントル・ソウツでお馴染みのスティーヴ・フォアマン(perc)、ウォーターズ(cho)など、トップ・クラスのセッションメンが参加している。

フェイヴァリット・ミュージシャンにジャクソン・ブラウンやジェイムス・テイラーの名を挙げるケンだけあって、音も70’sの西海岸テイスト満載。英語詞の曲があるのもそれっぽく、グルーヴィーなタイトル曲<Light Ace>や<15の時から>、ジミー・メッシーナに意匠を借りた絶品シエスタ・ソング<いねむり>など、名曲が揃っている。大瀧詠一や山下達郎が成功し、街に陸サーファーが溢れていた時代にあって、業界の評価や注目度も高かった。なのにどうしてケンはあまり売れなかったのか、少々不思議である。

1年半後の2nd『FLY BY SUNSET』では、売れっ子の鈴木茂と後藤次利をアレンジに迎え、よりソフィスティケイトされた都会的作りに。“シティ・ポップ” と言うより “アーバン・メロウ” と呼ぶのが相応しい…、そんなサウンド・メイクが施された。正式なクレジットはないが、鈴木と後藤以下、林立夫/村上ポンタ秀一(ds)、今 剛(g)、国吉良一(kyd)、斎藤ノブ/浜口茂外也(perc)、EVE(chorus)らがレコーディングに参加したそう。収録曲も、甘美な<A Little Bit Easier>、ライト・ステッピンな<踊りなよ>、アーバン・ポップの<ふたりなら>、キレのあるアレンジが印象的な<ジーナ>、サマー・フェアウェル<渚のストローハット>等など、キラー・チューンが次々出てくる。前作のようなシンプルなウエストコースト・チューンは減ってしまったが、これは時代に則した自然な変化だろう。ただコレも大した成果が出ず、ケンはしばらくソングライターとして活動した後、ハワイに転居したそうだ。それからの消息は、今も掴めぬまま。でもそれから30年以上経ってジワジワと再評価が進んでいるのだから、その音楽性が如何に優れていたかが分かる。今回のリイシューは、2ndのエンジニアを務めた【吉田保リマスタリング・シリーズ】のラインアップの一環で、氏の実妹:吉田美奈子のアルファ作品5作との同発だ。

ケンのアルバムはたった2枚しかないが、実は廉価盤など5種類のアートワークがあったことでも知られている(これとは別に、インナーと同じジャケの4曲入り10インチ・サンプル盤もあった)。今回はそれを全部ブックレットにあしらう気合いの入ったプロダクツ。カナザワも解説で参画し、一部ジャケットを提供させて戴いた。発売はタワーレコードとソニーミュージックショップのみとなるが、これは絶対お聴き逃しなく!

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