jan akkerman3
「これ、ヤン・アッカーマンなの
「ヤン・アッカーマンです
「あのフォーカスの、ヤン・アッカーマン
「そう、オランダのプログレ・バンドのフォーカスにいた、あのヤン・アッカーマンです
「ロイホロ ロイホロ ロッポッポ〜の人?」
「すごい形相でヨーデルしてたのはkydのタイス・ファン・レアーで、その隣で超絶ギター弾いてたのがヤン・アッカーマンです」
「でも79年で『3』って、枚数合わなくね?」
「アトランティックから出したソロのオリジナル・アルバム3枚目ってコトらしいです。間違いなく、あのヤン・アッカーマンです」
「でも演ってるコト、全然違うよォ!」
「それでも、同じヤン・アッカーマンなんですぅゥ

カナザワがこのアルバムの存在を知ったのは、リリースから10年以上が過ぎた90年代前半のこと。フォーカスの主要アルバムは耳にしてたし、彼の凄さも知っていた。ソロ作品までは追っちゃいなかったが、主にジャズ・ロック系で、デュオとか趣味的作品も混ざっていたのも把握している。けれどこのアルバムは、友人に教えてもらうまでノー・チェック。都会的でちょっとファンキーなライト・フュージョンを演っていると聞かされ、たいそう驚いた。冒頭の会話はフィクションだけど、おおまかな内容はあんな感じ。そもそも、それまでのアッカーマンに、このジャケのようなに爽やかなブルーは似合わなかった。

彼のアトランティックでの作としては、最終作に当たる通算5枚目。プログレの流れを汲むジャズ・ロックじゃ全然ウケないから、ちょっとハヤリの都会派フュージョンに乗ってみようか…。そんな意図で作られたのだろう。

フォーカス好きならご存知と思うが、実はタイス・ファン・レアーが78年に『NICE TO HAVE MET YOU』なる珍盤を作っている。プロデュースがトム・スコットとラルフ・マクドナルド。演奏陣にリチャード・ティーやエリック・ゲイル、アンソニー・ジャクソン、ハーヴィー・メイソン、スティーヴ・カーンといった、言わばニューヨーク・オールスターズ人脈。ホーン・セクションにはブレッカー・ブラザーズもいる。この陣容で、“ロイホロ ロイホロ ロッポッポ〜”の<Hocus Pocus(悪魔の呪文)>をブチカましているのだ。それも、結構オリジナルに倣ったアレンジで。これを聴くと、もう楽曲のユニークさがズバ抜けてて、サスガの彼らも成す術がなかった感がある。

アッカーマンはきっとそれを聴いて、“あれじゃカネの浪費。ニューヨークでアルバムを作った意味がない” と反面教師にしたのではないか。だから本作は地元オランダでのレコーディングで、メロディアスなフュージョン・スタイルに取り組んだ。前述のようになかなかファンキーだが、黒人音楽を取り入れたというより、例えばボズ・スキャッグス『SILK DEGREES』あたりのリズム・アレンジを参考にした気がする。身体から自然に染み出たグルーヴではなく、ちょっとアタマで考えてアンサンブルを組み立てているニュアンスがあるのだ。そこに米国録音のホーンやストリングスを被せて、聴きやすさを演出している。

でも中に1曲、実際にカリフォルニアで録音した歌モノ・ナンバーがあった。参加したのは、チック・コリアと演っていたバニー・ブルネル(b)、元カクタスのデュアン・ヒッチングス(kyd)、元ゲイリー・ムーア&G.フォースのウィリー・ディー(vo)など。そしてこの曲が何とビックリ 実はThe Limitことオーティス=ファン・シェイクの<She's So Divine>なのだ。彼らがアルバム・デビューするのが85年。でもこの<She's So Divine>は82年にシングルがリリースされ、米R&Bチャート44位をマークしている。それがこのオランダ人アーバン・ファンク・ユニットのデビューだと思っていたら、実はもうこの曲は79年に存在していたワケだ。このオーティスというのは、後にバーナード・オーツとしてAORファンに注目される人である。

ヤン・アッカーマンにしてみたら、元ガンのエイドリアン・ガーヴィッツがL.A.でAORアルバムを出したり、ABBAのバックを務めるギタリスト:ヤンネ・シャッフェルがTOTO参加のフュージョン作を出したので、その辺りへの意識があったのかも知れない。これでアッカーマンの変節事情が分かったが、オーティス=ファン・シェイクがこんなに早くからチーム・アップしていたとは…。また別の謎が増えてしまったな。

興味のある皆さんは、出たばかりの廉価盤が在庫あるうちに買うときや!ってコトで。