pecker
ずーっとジメジメの梅雨空続きだし、迫り来る締切にもアタマがモヤモヤして文章が浮かばない。スポーツ・ジムへでも行ってスカッと気分転換したいが、夕方は打ち合わせで出ないとイケないから、それも叶わず。こーゆー時は大抵ハード・ロックやプログレを爆音でカマしてストレス発散するが、どうもクリス・スクワイアの訃報があったばかりで、反って気が滅入りそう。そこで目についたのが、先月リイシューされたキレッキレのこのアルバム、ペッカーの『I RASTA』だ。


オリジナルは、KYLYNにも参加した日本を代表するパーカッション奏者ペッカーが80年にリリースしたリーダー・アルバム『PECKER POWER』と、そこから派生した企画作『INSTANT RASTA』。ジャマイカ録音作で、ボブ・マーリーのスタジオで行なったザ・ウェイラーズとのセッション、そしてチャンネル・ワンでのスライ&ロビー、オーガスタス・パブロとのセッションがメインになっている。…となれば、今なら大事件の一枚。でも当時はまったく注目されなかった。“日本最初のダブ作品” と持て囃されるようになったのも、かなり後になってのこと。しかもこの2枚が海外でカセットで売り出されたのがキッカケだ。

ジョン・ライドンのPILがダブを取り入れ、パンク系ロック・ファンには徐々に認知度が上がっていたが、そこでは賛否両論。ザ・クラッシュが『LONDON CALLING』や『SANDINISTA!』でレゲエやダブに本気でアプローチしたのが79〜80年、ローリング・ストーンズの『EMOTIONAL RESCUE』が同じく80年である。ペッカーを知る人は、彼をスタジオ・ミュージシャン=ジャズ・フュージョン系と捉えていたはずだから、ダブなんてほとんど理解されてなかった。

そもそも KYLYN LIVEでフィーチャーされたペッカーのパートにも、「???」な人が多かったのでは? 仕方ない。かのYMOでさえ、まだテクノというジャンルが確立されず、クロスオーヴァー/フュージョンの異分子的扱いを受けていた頃である。逆にいえば、それをすべて呑み込んでいたKYLYNの凄さが分かるはずだ。

とにかくそのペッカーの2枚。通販専門のBridge Inc.さんで2in1としてCD化(詳細はコチラから)されたが、それももう10年前の話で、近年はずーっと入手困難。だから今回のリイシューを待ち望んでいたダブ・フリークは少なくないと思う。また吉田美奈子、故・松岡直也、故・大村憲司らの異色ワークスとして興味を持っていた人もいるだろう。実質的な仕切りはコー・プロデューサーの生田朗(88年に事故死)で、後に妻となる美奈子さんの存在も大きかったようだ。

ただし、この『I RASTA』は単なる再発盤ではなく、かの久保田麻琴がリミックス/リマスタリングを施し、2枚のアルバムをミックスして再構成した、いわばリ・プロダクション仕様。ジャケももちろん新装である。その音はよりドープで、かつエッヂィに。これをデッカイ音で聴いてたら、モヤモヤ気分も晴れましたワ

なお、このアルバムの制作にまつわる話は、この貴重なインタビュー記事を参照されたい。面白くてアブないエピソードが満載です。