paul_tug of war
ポール・マッカートニーのデラックス・シリーズ最新作『TUG OF WAR』と『PIPES OF PEACE』の Super Deluxe Editionをゲット。映像はせいぜい1〜2度観てオシマイなので、内容的にはCD+Bonus CDの2枚組を輸入盤で買えば充分ななのだが、ポールのシリーズはこれまでずっと国内仕様のSuper Deluxeで揃えてきたので、ココは数倍の価格差に目をつぶって初心貫徹。あぁ、マニアはツライわ〜

そもそも80年代初頭って、AORやブラック物に一番ハマった頃だから、ポールに対する情熱は逆にずいぶん冷めていた。来日公演には欠かさず足を運んでいる自分ながら、成田で御用になった80年1月の幻のジャパン・ツアーは、学生で金がなかったコトも手伝って、チケットを買ってなかった。

このアルバムも、発売当初はレンタルしてカセットに録音して済ませていた記憶あり。スティーヴィー・ワンダーとの共演曲<Ebony And Ivory>はポールらしさに納得しつつ、踏み込みの甘さを指摘する声に同調していたし、<Yesterday>に因んでのジョン追悼曲<Here Today>、カール・パーキンスを迎えた<Get It>にしても、話題ほどの価値を感じなかった。スティーヴィーとの唯一の共作<What's That You're Doing?>にしたって、ジャムの域を出ない(<Ebony And Ivory>はポール単独作)。プロデューサー:ジョージ・マーティンに「なぜ自分より下手なミュージシャンを使うの?」と訊かれたことが発端となったスティーヴ・ガッドやスタンリー・クラークの起用も、ハッキリ言って名前以上の音楽的意味は薄く…。<Take It Away>に於けるリンゴとガッドのダブル・ドラムも、効果は限定的だ。結局ポールの楽曲には、メロディそのものの魅力を余さずに引き出せる演奏力があれば充分で、ジャズ・フュージョン的なスキルは必要とされないのよ。

そんなワケで、『TUG OF WAR』に対するカナザワの評価はあまり高くない。今回のリイシューでも、“80年代のポールの代表作” という紹介が一部にあって、“エッ、そうなの?”と軽く驚いてしまった。が、それは結局、<Ebony And Ivory>の成功と話題の豊富さに引っ張られてのこと。個人的には、<Ebony And Ivory>&other short pieces of music というのが本作の印象で、それは改めてデラックス版を聴き直しても変わらなかった。デモ・トラック満載のBonus Discにしても、やはり弾き語りにダブル・トラックの歌を乗せた<Ebony And Ivory>デモ・ヴァージョンが一番興味深くて…。その<Ebony And Ivory>のシングルB面曲で今回初CD化となった<Rainclouds>は、ジョンの死を知って茫然自失に陥ったポールが、家でジッとしていられず、予定通りにスタジオ入りしてレコーディングしたもの。まぁ大した曲ではないけれど、コチラはビートルズ史のドキュメントとして意義深い。

ただ、この『TUG OF WAR』がポールの80年代代表作ならば、彼がこの時期 如何に不調だったかを証明することになってしまうような…。もちろんステキな曲はあるが、70年代に比べて打率が下がっていた、という事実は動かしがたい。でもその一方で、『TUG OF WAR』より一般的評価の低い『PIPES OF PEACE』にも、<Say Say Say>や<So Bad>といった好曲があった。アルバム・トータルでは散漫と言われるが、打率は大して変わらないというのが自分の意見。まだ本作のDVDも観ることができてないけど、心はもう『PIPES OF PEACE』を検証したい気持ちになっている。