hancock_lite me up
一昨年から断続的に発売されているソニーのジャズ1000円盤シリーズのスピン・オフ企画として、この4〜5月に【クロスオーヴァー&フュージョン・コレクション1000』がスタート。その2ヶ月で100枚の名盤・好盤、珍盤・奇盤?が復刻される。久しぶりの復刻もあれば、日本初/世界初CD化もチラホラ。カナザワも解説執筆を担当し、20枚近くに寄稿させて戴いた。4月27日発売分では5枚あるので、何度かに分けていくつかピックアップしよう。

まずはハービー・ハンコックの82年作『LITE ME UP』。AORファン、往年のブラコン・ファン、そしてアーバン・フュージョン好きのリスナーには快哉を以って歓迎されたが、V.S.O.P.を好むようなガチのジャズ・ファンはコケにされまくったアルバムだ。自分も当時は「ハンコックがココまでやるか」と驚いたが、そのクオリティはサスガだった。

実際ここにいるのはジャズ・ピアニストのハービーじゃなく、サウンド・クリエイターとしての彼。トライしているのは、ディスコ仕様の踊れるクロスオーヴァー・サウンドだ。目指したのはズバリ、『愛のコリーダ』の頃のクインシー・ジョーンズ。鍵盤から離れてプロデュースに徹し、ハンコック流儀のポップ・ヴォーカル作品を創ったのだ。

だからスタッフにもクインシー・ファミリーを動員。作編曲はマイケル・ジャクソン作品でもお馴染みロッド・テンパートンで、バックはジョン・ロビンソン、ルイス・ジョンソン、スティーヴ・ルカサー/デヴィッド・ウィリアムス、ジェリー・ヘイにパティ・オースティンといったクインシー作品の常連たちを招集している。ヴォコーダーの掛け合いを演じるのは、ハービーに憧憬を抱くパトリース・ラッシェン。

更に2曲、外から気鋭のプロデューサーを呼んでいる。<Paradise>のジェイ・グレイドン、<Can’t Hide Your Love>のナラダ・マイケル・ウォルデンである。特に<Paradise>は、グレイドンとデヴィッド・フォスターのコラボレイトを欲したと思われ、何処か、彼らとビル・チャンプリンが書いたアース・ウインド&ファイアー<After The Love Has Gone>風。実際のライター陣も、このトライアングルにハービーが割って入った形になっている。しかもハービーの生歌が聴けるから、こりゃービックリ。ヴォコーダーを通して歌ったことはあったけれど、普通にリード・ヴォーカルを取ったのはコレが初めてだろう。が、その歌い回しは、AORの名シンガー:チャンプリンにソックリ。きっとビルの仮歌をそのままなぞったんだろうな、と推察できる。一方ナラダの<Can’t Hide Your Love>は、ホイットニー・ヒューストンのデビューやアレサ・フランクリン『WHO'S ZOOMIN' WHO』の前哨戦と受け取のが良いのでは?

結局この『LITE ME UP』は、ジャズ・ファンの罵声を浴びつつも、ジャズ・チャートでトップ10入り。R&Bチャートでも31位をマークした。しかしこのハービーはきっと、この一枚で目的を達成してしまったのだろう。前作『MAGIC WINDOWS』に一旦回帰し、最新テクノロジーをグルーヴィーなビートに乗せて披露した<The Twilight Clone>路線を追求。それが『FUTRE SHOCK』へと繋がるのである。



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