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既にSNSなどで既報の通り、ジェイムス・テイラーやジャクソン・ブラウンなど、西海岸のベテラン・ミュージシャンたちに愛された可憐な歌姫ヴァレリー・カーターが3日、心臓発作のため急逝した。ここ数年、ドラッグ禍に悩まされていたようだが、克服プログラムを修了し、活動再開へ向けて動いている、と伝えられていた。享年64歳。

ヴァルことヴァレリー・カーターは、フロリダ生まれのアリゾナ育ち。18歳でニューヨークに出て、グリニッチ・ヴィレッジのコーヒー・ハウスなどで歌ったあと、19歳でL.A.に移り、ジョン・リンド(フィフス・アヴェニュー・バンド)らとハウディ・ムーンを結成した。その時のヴァルは、まだ純情可憐で垢抜けないルックス。音楽関係者のグループへの評価は高かったが、商業的には成功せず、呆気なく解散を迎えた。しかし、ハウディ・ムーンのプロデュースを手掛けたローウェル・ジョージの人脈からコーラス要員として需要が高まり、それがこのソロ・デビュー作へ繋がった。アートワークを見ての通り、ココでのヴァレリーはかなり美しく変身している。

アルバムの発表は76年。プロデュースはエンジニアのジョージ・マッセンバーグだが、ローウェルと、ヴァルの後立てとなったモーリス・ホワイトが各2曲つづ、コ・プロデューサーを務めた。そしてアレンジにビル・ペイン、ジェリー・ピータース、デヴィッド・キャンベル、バックにリトル・フィート勢、アース・ウインド&ファイアー勢に加え、トム・ヤンスのアルバムでボズ・スキャッグス『SILK DEGREES』前哨戦的なことを演ったジェフ・ポーカロ、チャック・レイニーが参加している。ジョン・セバスチャン(楽曲提供も)やジョン・ホール(オーリアンズ)の参加は、かつてのヴィレッジ人脈ですかね? コーラス陣にはリンダ・ロンシュタットやデニース・ウィリアムスの名も。まさに関係人脈総動員。その顔ぶれの豪華さを裏切らぬ、ヴァーサタイルで都会派感覚のヴォーカル・アルバムが出来上がった。ロック好きだと、今や映画音楽の巨匠となったジェイムス・ニュートン・ハワード制作の2nd『WILD CHILD』(78年)に支持が集まりそうだが、より広範なクロスオーヴァー感覚に満ちているのは、この1作目。ま、基本的クオリティは甲乙つけがたいんですけど。

けれど、80年代のヴァルはあまり表舞台に立つことはなく、もっぱらセッションで歌うのみ。ようやく3作目『THE WAT IT IS』が出たのは96年で、その後ミニ・アルバム『LIKE A RIVER』(98年)、新曲入り2枚組ライヴ盤『MIDNIGHT OVER HONEY RIVER』(03年)を発表した。

とにかく、地味な存在なのに、日本のウエストコースト・ミュージック・ラヴァーズを惹きつけて止まなかったヴァル。この数日間、密かにレコードorCDを聴きながら、その歌声に浸って涙しているオヤジが多そうです。

Rest in Peace...