Urszula Dudziak

ソウル/R&B系やジャズ系のマニアックなレーベルとカタログ群を、片っ端から廉価でCD化している ウルトラ・ヴァイヴ系列のソリッド・レコーズ。昨年からインナーシティ ・レーベルの作品をまとめてリイシューしているので、クロスオーヴァー・テイストで未所有モノ、初CD化モノを順次抑えている。その中で超キョーレツだったのが、このウルシュラ・ドゥジャクの79年作『FUTURE TALK』。彼女にとっては4作目のソロ作で、インナーシティに残した唯一のアルバムとなる。

ウルシュラは1943年生まれというから、当時30代半ば。東欧ポーランド生まれで、50年代末にジャズ・シンガーとしてデビュー。ヴァイオリン奏者のマイケル・ウルバニアクと知り合って共に活動&生活するようになり、73年に揃ってニューヨークに移住した。そしてウルバニアクのリーダー作やプロジェクトに参加する一方、アリスタとソロ契約。75年に『URSZULA』、76年に『MIDNIGHT BRAIN』を出している。この2枚は彼女の超絶スキャットと、東欧出身らしく摩訶不思議な空気感に包まれたクロスオーヴァー・ジャズ作品として、レア・グルーヴ/フリーソウル方面で注目され、昨今のソニーのクロスオーヴァー/フュージョン廉価リイシューで何故にラインナップされないのかが不思議なほど。何か権利的な問題があるのかしらね? 特に下段に貼り付けた<Papaya>という曲は、アルバム・ジャケの年齢不相応のキュートなルックスも相まって、知らぬ方は悶絶必至のグルーヴ・チューンになっている。

ところがその一方で、ある種の狂気を孕んでいるのが、このウルシュラさん。美女と野獣が共棲している、とでも言うのか、スピリチュアル・ジャズを通り越して、かなりアヴァンギャルドな攻めを仕掛けてくるのだ。自分もそのアリスタ2作と82年の『ULLA』程度しか聴けてないが、この中で一番過激なのが、その中間にリリースされた、今回初めて聴く『FUTURE TALK』だった。

ニューヨークはジャマイカ・クイーンズに知己が多いウルバニアクだから、このアルバムにもマーカス・ミラー(b)、ケニー・カークランド(kyd)、バディ・ウィリアムス(ds)、ジョン・アバークロンビー(g)といった著名どころが参加している。マーカスは当時19歳。まだ駆け出しの頃である。でもそのキレッキレのジャズ・ファンクだけを期待すると、大怪我の元。例えば、マンハッタン・トランファーの一番尖ったところを抽出して30倍以上濃くしたような、かなり刺激的な歌い口のウルシュラさんがヒロインなのだ。フローラ・プリムやアル・ジャロウだって、きっと裸足で逃げちゃうよ。実際ボビー・マクファーリンとは彼のデビュー前から親交があり、彼の音楽性に少なからず影響を及ぼしている。

特にスゴイのは、サンプリング技術もなかったこの時代に、多重録音やエフェクト処理を駆使して、ワンマン・ヴォーカリーズによる宇宙的空間を創造していること。元々ワードレス・ヴォーカルが武器で、金属的ハイトーンやスクリーミングの達人だが、曲によってはオノ・ヨーコ的異空間さえ醸し出している。まさしく、美しき前衛ジャズ・シンガー。もしウェザー・リポートやリターン・トゥ・フォーエヴァーとの濃密な関係が構築できていれば、きっと彼女のポジションも大きく変わっていたに違いない。もしかして、ウルバニアクが囲い込んでたのかな?(80年代半ばに離婚) 

せめて今からでも再評価が進めば嬉しいゾ。