obscure city pop

まずは lightmellowbu の皆さん、上梓オメデトウございます。初めて lightmellowbu の名前を聞いた時は「なんだ、そりゃ?」でしたが、その後人づてにご挨拶が来て、「名前を使わせて欲しい」とのお願いがあり…。今では Light Mellow というコトバは音楽紹介の形容詞として普通に使われているので、今更許可もヘッタクリもなく、路線と感覚がシッカリと引き継がれていくのなら…、という感じ。その一方で、ココまで大きくなってしまうと、自分でイメージをコントロールするのはままならず…。とはいえ自ずと良心的音楽ファンの目が光っているワケで、違った意味や悪意で使えば、返ってそちらがハジをかく。よくもまぁ、ここまで Light Mellow を大きく盛り立てて戴いたモノです(感謝)。

そうした意味で、Light Mellow 20周年で、lightmellowbu の本が出るなんざ、まさにコチラが感謝したいくらい。自分が直接関わったワケではないのに、所々で自分の名前が出てくるのは不思議な感覚ながら、自分としては、我々の世代が真っ当な音楽文化継承の努力を怠って成り行きに任せた結果が、現在の歪な音楽シーンを生んでしまったと、何処か責任を感じている面がある。なのでこうして Light Mellow の意匠が次世代に繋がっただけでも、素直に嬉しい。それを洋楽AORでやろうとしているのが、いま執筆中の『AOR Light Mellow』20周年新装版だ。オンタイム・エイジのこだわりにしがみついていたら、もう先はない。だってリアルなAOR世代は、もう50〜60歳代なんだから…

さて、この度世に出た lightmellowbu の『オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド』は、シティポップ・リヴァイヴァル〜ヴェイパーウェイヴ以降の視点で、90年代のCDを中心に、1986~ 2006年に発売された隠れ名盤を紹介したガイド本。ある人が Book Off を“勝者の墓場” と呼んでいて、うまいコト言うなぁ…と感心したことがあるが、ここに掲載されているのは、いわば “最後の敗者復活戦” だろうか? サブスクリプションの普及で、 いつまで Book Off に中古CDがあるのか?という切迫した問題も考えられる中、ただの “時代の徒花” では終わらせたくない、という bu員たちの情熱と執念が伝わってくる。

そもそも Light Mellow のコンセプトというのは、洋楽AORのガイド本から生まれたものだ。それが2000年代に入り、同じコンセプトで、オトナの和製AORコンピレーションを作って欲しいと打診され、それが Light Mellow 和モノに進化していった。元々洋楽好きだった自分だから、早くから和モノを深く掘っていたワケではなく、せいぜい洋楽センスのニューミュージック止まり。80年代も半ばになると、打ち込み全盛、リバーブで塗りたくったプラスティックな音が主流になり、ミュージシャンたちの芳醇な技がキチンと聴けなくなってしまった。それで一気に和モノが縁遠くなり…。だから自分の個人的音楽史には、80年代後半から90年代の和モノ、特にこの時期にデビューした新人たちは、スッポリ抜け落ちている。だから、まるでそこを狙って補完したような lightmellowbu のセレクトには、思わず膝を叩いた。

じゃあこの本片手にBook Off 巡りを始めるかといえば、その気はサラサラない。やはりこの時代の音は、自分にとっては “時代の徒花” だと思えてしまうのだ。04年に最初の『Light Mellow 和モノ669』を作った時、アルバム・ガイドではなくリコメンド・トラック形式にしたのは、クラブ・フロア/DJ対応であると同時に、当時の空気感や商業性に乗せて制作された普遍性に乏しい楽曲を斬り捨てるための、一石二鳥の手段だった。当時のヒット曲やCMソングは、まさに時代の音のシンボル。『Light Mellow 和モノ669』以前にもズバリ “シティ・ポップ” を謳ったガイド本は出ていたが(近々改訂版が出るらしい)、視点が前時代的で、これからの世代に対応できていないシロモノだと感じていた。後にDJ諸氏から「ひとつの重要な座標軸になった」と評価された『Light Mellow 和モノ』とは、根本的スタンスが異なった。現在のシティ・ポップ・ブームが巨大化したキッカケが、YouTubeやSNSに於ける海外からの80'sブギー再評価やヴェイパーウェイブであるなら、やはりDJシーンでの和モノの流行がその前段階にあったのだ。

でもココに載っているCD群は、むしろそうした時代性を逆手にとっている。傍系はどこまで行っても傍系で所詮 王道にはなれないけど、それを今の世代の感覚で紐解くと、傍系シティ・ポップにも大いなる存在価値が見つかる。最初からオブスキュアと謳っているのは、そういう視点だからだろう。

ホント昨今のシティ・ポップ・ブームには驚くしかないけれど、実際はもう既に拡散・崩壊が始まっていて、昨今現れてきた新人たちには、ただレッテルを利用しているだけのエセ・シティ・ポップが多くなった。これはJ-R&Bブームの時と同じで、あれだけ存在したR&Bシンガーたちは短期間で淘汰され、結局シッカリ生き残ったのは元祖MISIAだけという…。それがメジャーのやり方だ。アーティストの個性を伸ばすのではなく、その時々の売りやすい看板を使って荒稼ぎし、目先の利ザヤを持っていく。アーティストのためでも音楽ファンのためでもなく、親会社や株主の顔色を見て音楽を作り、湯水のような宣伝費を使ってメディアに乗せて売っている。そこに文化的価値観は、ほぼ皆無だ。制作現場には真摯に音楽を作っている方が少なくないけど、悲しいかな、体制としてそれが反映されることはない。仮に、そうしてシッカリと作り込まれた作品でも、大して宣伝に乗らず、人知れず消えていく。それをセッセと集めた側面も、このガイドには隠されているな。

アナログ盤のブームもかなり異常だけれど、先導しているのはほとんど外人。先にガイド本が出た“和レアリック”も、盛り上がっているのは一部DJたちに止まり、国内再発市場は笛吹けど踊らず状態だそうだ。逆に海外からはライセンス需要が高いという。大枚出してやっと手にしたヴァイナルに、フロア・ユースの1曲しかマトモな曲がなかったら、多くの音楽ファンは怒ってしまうだろう。でも250円なら笑ってやり過ごせる。いや完全にスカだって痛くないし、10枚買って1枚アタリが出たら元が取れる感覚。惜しむらくは、むしろ探したり聴いたりする時間の浪費かな?

そういった表のスタンスに半ば罵声を投げかけ、廃棄間近のゴミCDの山から珠玉の作品を選りすぐる lightmellowbu の活動の集大成。ある意味、CDメディアの断末魔による雄叫び的ガイドブック。まさに今だからこそ存在価値がある一冊だ。