valerie carter live

ヴァレリー・カーターが亡くなって早3年。晩年の彼女はあまりイイ状況じゃなかった、とは聞くけれど、日本のウエストコースト・ロック・ファンには深く愛され続け、未発表曲集が組まれたり、こうして来日時のライヴ音源が作品化されたりする。ご紹介はズレたけど、発売日は彼女の命日である3月4日。さっそくあの日の思い出に耽っているオジサン・ファンが少なくないのだろうな…

レコーディングされたのは、94年12月20日@恵比寿カーデンホール。佐橋佳幸の連名作であるように、ヴァレリーをサポートするのは佐橋さん仕切りによる日本の実力派ミュージシャン集団だ。顔ぶれは佐橋さん以下、山弦の相方:小倉博和(g)、UGUISSからのバンド・メイト:柴田俊文(kyd)、斎藤有太(kyd)、有賀啓雄、小田原豊(ds/元レベッカ)、大石真理恵(perc)。洋楽ファンでも知っているような大物ミュージシャンこそいないが、そこはサスガ佐橋さん。無茶振りにも前向きに応えてくれるような、気心知れた仲間たちをキャスティングしている。そのほっこり感がヴァレリーを優しく包んでいるから、彼女も気持ち良さそうに歌っているんだろう。ブックレットの対談によれば、リハーサルが一回しかできないため、かなり細かいパート譜を用意したそうだが、その譜面の行間を読んでいるというか、音符だけでは伝わらない感情表現が彼らの演奏からヴィヴィッドに伝わってくる。

収録曲は『JUST A STONE'S THROW AWAY(愛はすぐそばに)』と『WILD CHILD』という当時出ていた2枚のソロ・アルバムからの5曲に、リトル・フィートの<Long Distance Love >とジャニス・ジョプリン<Half Moon>のカヴァー。後に『THE WAY IT IS』(2010年)に収められる<Blessing In Disguise>の8曲。ヴァレリーのマネージャーが亡くなったローウェル・ジョージの奥様だったそうで、彼女が佐橋さんのプレイを「ダンナが弾いてるみたい」と言ってた、なんてエピソードもあるそうだ。

元々この日のライヴは、ヴァレリーのソロ公演ではなく、J-WAVEのラジオ番組と連動したライヴ・イベントがベース。それで、ちょうどソロ・アルバム『TRUST ME』を出すタイミングだった佐橋さんに声が掛かった、という流れだ。しかしソロ・ライヴの経験がなかった佐橋さん、だったらアルバムにゲスト参加してくれたヴァレリーを呼んで、ジョイント・ライブにしてはどうだろう?と企画したそうだ。したがってこの日は、佐橋ソロで3曲、続いて山弦で数曲、そして本作で聴けるヴァレリーのステージという三部構成だったという。<Half Moon>はオーリアンズのジョン・ホールがジャニスに書いた曲で、カナザワはそれこそジョン・ホール版に馴染みがあるけど、ジョン・ホールをフェイヴァリット・ギタリストに挙げる佐橋さんのギター・トーンはモロにジョン・ホール風。これはアンコールで演奏された音源だそうだ。

そのガーデン・ホールでのイベント・ライヴ8曲に、青山のライヴ・ハウス:曼荼羅(マンダラ)で、2日前に行われたウェルカム・パーティ的ライヴでの2曲をボーナス・トラックとして追加収録。こちらはヴァレリーと佐橋さん、柴田俊文(kyd)の3人だけで演奏したそうで、ヴァレリーの歌が素晴らしく、本番でステージにかけられなかった2曲をココに収めている。その2曲とは、1st の<Face Of Appalachia>と、新曲<Unchained>。後者はヴァレリーの友人のシンガー・ソングライター:ジュード・ジョンソンの曲で、後にジョニー・キャッシュのグラミー受賞作(最優秀カントリー・アルバム)のアルバム・タイトル曲になる。日本じゃほとんど無名のソングライターだけれど、実はベット・ミドラーやスティーヴィー・ニックス、ローラ・ブラニガンにも楽曲提供しているようだ。

まだリーマンだったカナザワゆえ、この時の来日ライヴには足を運んでいないけど、ヴァレリーの歌声がレコード通りなのが嬉しい。若干ピッチが不安定になる箇所もないではないが、オープニングの<Ooh Child>のように意外に力強く声を張り上げて歌うところもあり、思わず オオッ〜を身を乗り出す。当時もジェイムス・テイラーのバック・コーラスなどで歌っていたから、基本的なレヴェルは高いのだ。それでもMCの、はにかみながら喋っている風情も含めて、スキルとは別次元の味わい深い歌がそこかしこに。それにそっと寄り添ってヴァレリーを盛り立てる佐橋バンドの演奏も、こりゃー何とも素晴らしいなァ〜