marcos valle_cinzento

今年9月で77歳を迎えるブラジル音楽界の至宝マルコス・ヴァーリが乗っている。昨年、英Far Our Recordings からリリースした『SEMBRE』は、まさに近年大人気の80'sブギー・ファンクにアプローチした話題作で、日本のラテン系音楽ファンの投票による『年間ブラジル・ディスク大賞』において堂々首位を獲得。10月には盟友アジムスとジョイントで来日公演を行い、そのライヴ・パフォーマンスにはカナザワも胸躍らせたばかりだ。

そんなマルコスが、今年早々に発表したのが、この『CINZENTO(シンゼント)』。前作から1年足らずでの新作リリースに驚くが、その2作が中途半端な企画なんかではなく、ほとんどを書き下ろしの新曲で固めている事実に、2度ビックリする。ブルーノート・トーキョーで観た時も、全然若々しくて驚いたが、この歳にして創作意欲がまったく衰えていないのは、本当にスゴイ その『CINZENTO」が、コロナ禍で予定より少し遅れ、5月末に国内リリースと相成った。

ただし連発とはいえ、作品のベクトルは前作『SEMBRE』とは少々異なる。アチラが煌びやかな80'sサウンドだったのに対し、『CINZENTO」はマルコスの鍵盤/ギター+リズム隊のトリオがベーシック。そこに一部のトラックでギタリストやホーン奏者らが加わるシンプルな編成だ。このスタイルのルーツが、名盤とされる73年作『Previsao Do Tempo』。そこで彼をサポートしていたのがアジムスで、このアルバムがロンドンのクラブ・シーンで再評価されたことが、90年代以降のマルコス人気に繋がった。今では数多いマルコス作品の多くが、日本でも容易にCDで手に入る。

本作のもうひとつのポイントが、自分の息子世代のソングライターたちを作詞に招いていること。その中にはカエターノ・ヴェローゾの息子モレーノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジルの息子ベン・ジルもいる。それにずーっとマルコスの歌詞を綴ってきた兄パウロ・セルジオ・ヴァーリに、ヴィンテージ・サウンドの理解者カシンの名も。

片や50年もの付き合いになるアジムス、片や息子世代の若きタレントたち…。その両方と自在にコラボレイトして、素晴らしい作品を遺しているマルコス。この春に予定していた来日はコロナ禍で流れてしまったけれど、このアルバムを生で聴く日が今から楽しみでならない。