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プレAORについて執筆を進めつつ、更にそれを遡って、いろいろ考えを巡らせている。つまり、プレAORを創ったミュージシャンたちは、一体何を聴きながら表現の枠を広げていったのか?と。海外ではコンテンポラリー・ジャズに分類されるようなAORアクト、マイケル・フランクスやケニー・ランキン、ベン・シドランらがきっと耳を傾けていたと思しきが、『CHET BAKER SINGS』であり、ジャズとボサノヴァの邂逅を刻んだ『GETZ / GILBERTO』であり、そしてこのモーズ・アリソンではないか。特にベン・シドランのヒップなスタイルは、モーズの影響大。そしてそのベン・シドランと近しいジョージィ・フェイムもまた、モーズに大きく感化されている。

モーズの代表作とされる『THE WORD FROM MOSE』は、1964年の作品。57年にプレスティッジでデビューし、米コロムビアを経て62年にアトランティック入りしたモーズにとって、コレはアトランティックでの3枚目に当たる。でもこの時点でもう10枚以上のアルバムを出していて。それでもミッシッピ州タラハシー出身のモーズにとって、ブルースやR&Bに理解の深いアトランティックは居心地が良かったようで、結局70年代中盤までそこに止まることになった。

ブルースとジャズの融合をピアノの弾き語りスタイルで披露するのが、モーズの基本流儀。だからオーセンティックなジャズ・シンガーの系譜から爪弾きにされていたが、その分、ロック系のシンガー・ソングライターたちに深く愛された。ヴァン・モリソン、トム・ウェイツ、ボニー・レイットなどが、モーズ・フリークとして有名。その中でモーズのスタイルをダイレクトになぞらえ、ヒップなところをバンド・スタイルでダンサブルに聴かせたのがジョージィ・フェイム、ロックとファンクに透過させたのがベン・シドラン、というコトだろう。ベンはともかく、ジョージィ・フェイムもAORのラインに乗るの?と思われる方も多いと思うが、ブルー・フレイムズを率いてロンドンのクラブを湧かせた60年代のフェイムではなく、低迷していた70年代にシンガー・ソングライター志向を強めたり、ブルー・アイド・ソウル寄りの作品があって、ボズ・スキャッグスの初期曲をカヴァーしてたりする。

モーズのこのアルバムも、リズム隊を従えてのトリオ作品。ニューヨークを拠点にするサザン・マンらしく、ブルースにフォークやカントリーのフレイヴァーを交えながら、それをジャズ・スタイルに包んで、洒脱かつスマートに仕上げている。ほとんどの楽曲がモーズのオリジナルながら、中にはマディ・ウォーターズ<Rolling Stone>やパーシー・メイフィールド<Lost Mind>のカヴァーも。<New Parchman>は自作だけれど、もろに<Crossroad>。オリジネイターであるロバート・ジョンソン(同じミシシッピ出身)をリスペクトしたのか、エルモア・ジェイムスを手本にしたのかは知らないが、一番有名なクリーム版より早い。きっとクラプトンやミック・ジャガーあたりもモーズを聴いていたんだろうな。