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引き続き、ULTRA-VYBE / Solid Records 名盤1000円シリーズ【邦楽編】のシティ・ポップ・アイテムから、2年前にリイシューされた南佳孝のデビュー・アルバム『摩天楼のヒロイン+5 (45周年記念盤)』もこの廉価版シリーズで。はっぴいえんど解散後の松本隆、初プロデュース作品(73年)というコトで、本作をもってシティ・ポップの第1号作品とする声もある。

アレンジは松本隆と矢野誠。演奏陣はその2人に細野晴臣、林立夫、鈴木茂のティン・パン・アレー勢+小原礼、駒沢裕城ほか。はっぴいえんどの解散が決まった後、マネージャーが新レーベル(ショーボート)を立ち上げ、4人のメンバーがアーティストを連れてきて1人1枚づつアルバムを作る、という流れになった。そこで細野が吉田美奈子、松本が佳孝さんを手掛けることになったそうだ。

でも当の佳孝さんは、“シティ・ポップの第1号作品” と言われることには違和感があるようだ。それは松本、矢野と3人で作った感覚があるからで、ソニー移籍後の『忘れられた夏』の方がデビュー作らしいと語る。松本と佳孝の狙いは、オーケストレーションをふんだんに取り入れて、洗練されたコンセプト・アルバムを作りたい、昔の映画みたいに仕上げたい、ということ。しかし2人ともヘッド・アレンジしかやったことがなかったため、クラシック上がりでジャズもポップスも解する矢野が連れて来られた。矢野は南の大学の先輩バンドのゲスト・ピアノ奏者だったそう。ソウルっぽいテイストは、松本がもたらした。

個人的な感覚でも、本作を “シティ・ポップの第1号” とするのは、少々違和感がある。それは松本自身が「オーヴァープロデュース」と言っているように、ハリウッド映画的なコンセプトを完璧に作り込んでいいて、「街」の生活の匂いがまったくしないから。佳孝さんの持ち味は、そういう浮世離れしているトコロにあるのは確かなのだが、これはまさに架空のドラマみたい。日本のポップス史的には、はっぴいえんどの次にある本作が重要なポジションにあるのは疑いない。でもそういう意味では、プロデュースワークが失敗したことで作詞家:松本隆が本格的に始動した、と言えるかも。実際このあと松本は筒美京平と出会い、一緒に組もうと誘われたそうだ。そこで彼が感じたことは、売れる音楽を作ることと、世に残るものを作ることの違い。言い換えれば、記録に残るか記憶に残るか、ということ。う〜ん、音楽制作の永遠のテーマですね。