abs7

新生AB'S の復活盤、降臨。デビュー当時から彼らにヤラレちゃってた人としては、本格的再結成を今か今かとと待ち詫びていたワケで、若干間延びした感さえあるのだが、再始動してからもベースが交代したり、一筋縄ではいかなかった様子。ちなみに現行メンバーは、芳野藤丸(g. vo)、松下誠(g. vo)、岡本郭男(ds)のオリジナル・メンバー3人に、竹越かずゆき(kyd, vo)、遠山陽介(b)の5人。新加入の若手2人の血液型は、残念ながら分からない。(AB'Sという名前は、メンバー全員の血液型がA型かAB型だったことからきている)。

オールド・ファンはご存知だろうが、AB'Sはゼロ年代にも創設メンバーで再結成していて。途中キーボードが安藤芳彦から山田秀俊にチェンジしたものの、『NEW』(05年)、『BLUE』(07年)をリリース。ライヴ・ハウス・ツアーに加え、一大イベント:Crossover Japan にも出演した。しかしその後はメンバーのスケジュールが合わなくなり、そのまま実質的解散状態に。10年代半ばから水面下でリユニオンへの模索が続いていたが、それぞれモチベーションや健康上の問題からなかなか実現せず、19年になってやっとリ・スタートを切った。ちなみに新作が7枚目と謳っているということは、限定発売だった最初の再結成盤『A5B3S』(04年)はカウントしていないのネ。

でも、今だから言えるけど、ゼロ年代の再結成は、ちょっとカナザワ的には煮え切らなさを感じていた。ミュージシャンシップはサスガなのに、楽曲にバラつきが多いのか…。キャリア集団だから何でもソツなくこなして無難にまとめてしまえるけれど、結成当時とは違って、各人の目線の先がバラバラかもしれない、なんて思えた。それゆえ実は、今回もセルフ・カヴァーが2曲あることを知って、一抹の不安を抑えられずにいたのだ。SHOGUNにしても藤丸ソロにしても、近年はいつもセルフ・カヴァーでお茶を濁す感があったから、その繰り返しにならないかと危惧した。充分すぎる実力があるのに、何故 MOON時代のようには上手く行かないのか。それはもしかして、藤丸さんにハッキリとダメ出しできるコントロール役がいないのでは?、そう思っていた。

でも今度の新作『AB'S -7』は違った。初期3枚に負けず劣らずのクオリティを持ち、マニアックながらもシッカリと狙いが窺えるニュー・アルバムが完成したのだ。

収録曲は全10曲。セルフ・カヴァーの<Fill The Sail 2020>と<Dee-Dee-Phone 2020>を除くと、藤丸3曲、松下誠と竹越かずゆきが各2曲、そして岡本郭男1曲という構成。元メンバーの安藤芳彦が2曲、藤丸と懇意の井上鑑が1曲、それぞれ作詞で関わっているのも嬉しいところ。サウンド的には、UKっぽいジャズ・ファンクを緻密に構成した初期と違って、少しテンションを緩めたようなAORスタイル。しかも楽曲自体がなかなかの出来。ベースと鍵盤に若手が入ったことで、藤丸 vs 松下の構図がクッキリ浮かび上がり、方向性がだいぶまとまった気がした。それこそオープナーの<ナザレの夕陽>から、グルーヴィーなビートに乗る2人のギター・カッティングの絡みやソロ合戦がカッコ良く、思わずニヤリ。続いての<Shining Star>は緩めのメロウ・ミディアムで、その辺りの緩急のバランスも心地良い。これまでのAB'Sで、今回ほどガチでギター・ソロを交わした作品はなかったのでは? それでいて、シンプルに徹する場面もあって、アンサンブルがコントロールされている。やはり前回再結成時のAB'Sは、呉越同舟とは言わないまでも、船頭が多すぎたのかもしれないな。

新加入の竹越は、ゴダイゴのサポートなどで活躍してきたそうだけれど、一歩下がって藤丸 vs 松下を盛り立てつつ、そのバランス感の中で自分の色を提示している。耳馴染みの良いイイ曲を書くし、ヴォーカルもなかなかで、AB'Sの持ち味のひとつであるヴォーカル・ハーモニーにも貢献。歴代メンバーの活躍に比べても遜色はない。AB'S というと、どうしても演奏面に耳がイクけれど、実はシッカリとハモれることが重要なポイントだ。

セルフ・カヴァーの2曲もアレンジそのものはナイス。メロウに変身した<Dee-Dee-Phone 2020>、とりわけカナザワが大好きな<Fill The Sail 2020>には思わず聴き惚れてしまう。けれど、それでもやっぱり35年以上の思い入れを背負ったオリジナルにはちょっと及ばず、と言わざるを得ず…。結果論だけど、このレヴェルの新曲を揃えるコトができるなら、最初からセルフ・カヴァーはボーナス扱いにするとか、新作は書き下ろしで固めて、それとは別にセルフ・カヴァーだけのミニ・アルバムを作るとか、別の方法があったのではないか。セルフ・カヴァーって、特別な企画モノならともかく、どうしても曲作りに煮詰まった時の方便とか人気取りに見えてしまう。新曲が良い出来だっただけに、そこだけがちょっと勿体無かった。

カナザワのフェイヴァリットは、藤丸さん作の<Stay In The NIght>。ダブらせたリード・ギターにまったりコード・カッティング。コロナ禍だけど、この週末のライヴ、観たいなぁ…。あと、ベスト盤も出ます。