jack magnet

我が【Light Mellow Searches】on P-VINE から2月3日リリース予定だったヤコブ・マグヌッソン『JACK MAGNET』が、2週間ほど発売延期になって17日にオン・セール。約18年ぶり2度目の再発になるが、今回はボーナス・ディスクを追加しての2枚組で、オリジナルのアイスランド版に封入されていた見開き4ページのニュースペーパー(日本流に言えば夕刊紙サイズ)も再現される(若干縮小)。そんな細かい作業の遅れと、何よりヤコブのメール・インタビュー回答が遅れて…。でもその分、超濃密な返事が来た。なるほど『JACK MAGNET』が北欧盤のみの激レア盤と化した裏には、あんな超大物の差配が絡んでいたのか…。そうしたヤコブからのレスを引用しつつの解説、ようやく執筆し始めたところだけど、カナザワのライター・キャリア20年で最長になりそう…。とにかく発見が多くてビックリ、です。

その小出しネタが、この2016年のアルバム。アーティスト名義が "JACK MAGNET" とあるが、つまりはヤコブ自身のソロ・アルバムなのだ。ジャケも両手でU字型の大磁石を持ち上げる構図です。

フロリダにあるインディ・レーベル発とのことだけど、中身はストレートなスムーズ・ジャズ・アルバム。しかも制作を手がけたのは、その筋のトップ・プロデューサー:ポール・ブラウンだ。当然参加ミュージシャンも豪華で、リック・ブラウン(tr)、リッキー・ロウソン(ds)、レニー・カストロ(perc)、ボビー・コールドウェルのサポートで知られるロバート・ヴァリー(b)、そして同じアイスランドのメゾフォルテからエイソール・グンナーソン(syn)らが参加。曲作りには、ベテラン・トム・ブラウンも名を連ねている。

「ポール・ブラウンは私の古い友人で、2人とも2013年のレイキャビク・ジャズ・フェスティヴァルに出演していた。彼は私のクインテットにも参加してくれて、素晴らしいステージになったよ。それがキッカケで、彼が『GLOBAL WARMING』をプロデュースしてくれたんだ。このアルバムは米国ジャズ・チャート16位に入った」

そうか!と思ってヤコブの旧作をチェックしてみると、いました!彼の全米デビュー作となった79年作『SPECIAL TREATMENT』に。メイン・ギタリストは、メキメキ頭角を現していたカルロス・リオス。更にジェフ・バクスター、ヤコブを英国で引き立てたイエスの初代ギタリスト:ピーター・バンクスもいる。更にトム・スコット、マイケル・ウルバニアク、ビル・チャンプリン、ヴィクター・フェルドマン、シーウインド・ホーンズ等なども。ポールもまだ22〜23歳で、本格的なレコーディング・セッションでプレイしたのは、ほとんど初めてだったんじゃないだろうか。

スムーズ・ジャズ・チャートで成果を上げただけあって、なかなか聴き心地の良い『GLOBAL WARMING』。とはいえ、他のスムーズ・ジャズ・アルバムに比べると、ちょっと陰影が強く内省的な楽曲が多い印象で、クール且つ何処かインテリジェンスが漂う。その辺りが如何にも北欧〜英国〜米国を股に掛けるミュージシャンっぽい。ジャック・マグネットの正体については ほとんど知られていなかったようで、新人キーボード奏者のデビュー・アルバム、みたいなレビューも。実際は60歳代に乗った大ベテランなのにね。それでもヤコブは元気ハツラツ、昨年も『HIGH NORTH』というソロ・アルバムを出したとか(カナザワも未聴)。更に新作アルバムも制作が進んでいるようで、「これまでの どの作品とも驚くほど違うものになる」と力説していた。

少し前にSNSでちょっと話題になったが、現在のヤコブは “今は何をする人ぞ” 状態。実はもう10年以上もアイスランドの音楽著作権協会会長を務め、同国音楽業界にとって有利になるようロビー活動を行なっているという。90年代には、在英アイスランド大使館で文化担当官兼臨時大使を詰めたこともあるというからビックリ。並行して自分の音楽活動を行ない、大きな音楽フェスの共同開催やチェアマンを務めたり、チャリティや福祉活動にも関わっていて、いわゆる大物文化人になっているようだ。それなのに、こんなアルバムを地味ィ〜に出していたなんて、最近まで知らなかったよ。

間も無くリイシューされるヤコブ名義のAOR盤『JACK MAGNET』については、また後日、発売が近くなったら。