akira jimbo 28

3年前の2018年元旦から、オリジナル新作アルバム2枚を同時発売するという新しいルーティンをスタートさせた世界的ドラマー、神保彰。コロナ禍でワンマン・オーケストラのワールド・ツアーが中止になって時間ができたのをイイことに、これまで目標に掲げながら達成できていなかった新曲の年100曲書きを完遂。それを元に、2021年の年明けは新作3枚を同発する暴挙()に出た。

敢えて “暴挙” としたのは、神保さんのプロダクツに対してではなく、レコード会社に対して。ドメスティック・メジャー・レーベルがガン首揃えてフュージョン系リリースから撤退していく中、キングはまさに孤軍奮闘している。しかし同一アーティスト3枚の新作を同発するとなれば、セールス面で喰い合うリスクが高い。でもそれをOKしたということは、ココ何年かの2枚同時リリースでの実績があるからだろう。そうしたリスクを跳ね返すアーティスト・パワーが、今の神保さんにはある。

ステイ・ホームをポジティヴに捉え、この環境下なればこそのアプローチにトライ。デジタル・ネイティヴ世代がマシン・ビートに触発されて創り出した “意図的にハズした” リズムを大胆に取り入れた。3枚のアルバムは、変態超絶ギタリスト:オズ・ノイをフィーチャーしてのファンキー&ブルージーな『28 NY BLUE』、ラテン系ピアノ・トリオ&デュオを収めた『29 NY RED』、そして自由な発想で臨んだプログラムを駆使しての初の完全ドラム・ソロ・アルバム『30 TOKYO YELLOW』。かくしてドラムとプログラムは東京、それ以外の生演奏はニューヨークで録音したという3つのプロジェクトが完成した。イヤイヤ、何処までも前向きで実行力のある神保さん。ドラム・プレイが素晴らしい、作曲能力に長けている、そうした音楽の才だけではない、そもそもの人間力がスゴイのだ。

そうした上でバンド・アンサンブル好みのカナザワには、やはりギター・トリオの『28 NY BLUE』が一番シックリ来た。オズ・ノイは昨年の『26th STREET NY DUO』で共演し、神保自身が強く衝撃を受けて再共演を望んでいたそう。スムーズ・ジャズ系のギター弾きだといくつかのタイプに集約されてしまいがちなのに、オズはイスラエル出身というコトもあってか、相当に個性的でアグレッシヴだ。エドモント・ギルモアは、神保さんが参加したマイク・スターンのジャパン・ツアーで共演したベース奏者。彼もまたイスラエル出身で、オズとの共演も豊富、ニューヨークでは互いの住まいも近くコミュニケーションに不安はない。そうしたキャスティングの妙も成功の要因だ。ヒップホップ由来の斬新なエクスペリメンタル・ビートの導入で、これまでの作品と違った猥雑感があるのも目新しい。デビュー40周年にして、まだまだ進化を続ける神保彰、それを実感できるアルバムだ。

折もおり、T-SQUAREを牽引してきた安藤まさひろが、グループからの “引退” を発表した。別にミュージシャンを止めるワケではないので、いわゆる “脱退”。アイドル・グループなら “卒業” だが、まずは素直に「ご苦労様でした」とねぎらいたい。彼が離脱を考えたのは初めてじゃないはずだが、安藤さんは元々、例えばカシオペアの野呂(一生)さんのように率先してバンドをグイグイ引っ張っていくタイプじゃなく、極めて民主的にメンバーを立て、それを緩やかにまとめていくスタイル。だから半ばルーティン化したグループの活動に疲れてしまったのだろう。いまJ-フュージョン全体を俯瞰すると、少し前にDIMENSIONのトライアングルが崩れ、カシオペア3rdのこの前のライヴも、スケジュールの都合か何かの伏線なのか、ドラムは神保さんではなく川口千里チャンが叩いていた。J-フュージョン・シーンで何か静かな胎動があるようで、マンネリ化もゴリゴリに凝り固まり、ついに崩壊し始めたのか、なんて…。でも神保さんにを見れば分かるように、一番進化できないのはアーティストじゃなくて、一部の原理主義的ファンなんだよなぁ。