sharon ridley

ビル・ウィザースを輩出した米西海岸拠点のソウル・レーベル:Sussex(サセックス)のカタログ・リイシューがスタート。その詳細はこの辺りの特集サイトをご覧いただくとして、まずはそこからいくつか、日を追ってピックアップしていくことにしよう。まずは、Sussexの後継的レーベル:Tabuでの2作目『FULL MOON』(78年)からのダンス・クラシック<Changin'>で有名な女性シンガー、シャロン・リドリーのデビュー・アルバム『STAY A WHILE WiTH ME』を。

リリースは71年。…というコトは、結構イナタい音を連想するだろう。でも年代の割に、意外にサラリと聴けてしまうのは、いくつかの理由がある。まず第一に、プロデュース/作曲がヴァン・マッコイと彼の制作パートナーであるジョー・コブ、アレンジがマッコイであること。タイトル曲は、デヴィッド・フォスターの出身グループ:スカイラークのシンガーだったドニー・ジェラルドがR&Bチャートにランク・インさせた他、メルバ・ムーアやテルマ・ジョーンズ、ウォルター・ジャクソン、ベン・E・キング、ダズ・バンドにパッツィー・ギャランまでが歌っているスロウ・バラードの名曲だ。また唯一のマッコイ単独作である<Where Does That Leave Me>は、68年のナンシー・ウィルソンなど、複数のシンガーが歌っている。つまりは、なかなか良い楽曲が揃っているということだ。

第二として、シャロン自身の育ちがよいこと。敬虔なクリスチャンの中流家庭に育ち、日常的にゴスペルを歌いながら、ジャズやポップスにも親しんでいたそうだ。ハイスクール時代はサックスやフレンチ・ホルンを吹いていたというから、クラシックの素養もありそう。林 剛氏の解説によれば、ソウルはアレサ・フランクリン、ジャズはサラ・ヴォーン、ポップスならバーブラ・ストライサンドに影響を受けている。大学を出て、ワシントンD.C.で秘書などをしながらサパークラブで歌っていたところを、マッコイのスタッフに発見されたのがデビューへの道筋となる。

そうしたルーツを知ってか、マッコイもジャズ寄りのビッグ・バンドなどで活躍するミュージシャンをキャスティング。ベースはマッコイと縁深い、後のスタッフの中心人物ゴードン・エドワーズだ。マッコイのアレンジの妙と、こうした抑えた演奏が、このアルバムを凡百のソウル作品とはチョッと違ったポジションに置いた。これが第三の理由。例えば、バート・バカラックとの蜜月を送ったディオンヌ・ワーウィック、ジミー・ウェッブのプロデュースでデビューしたテルマ・ヒューストン、その辺りに近いセンを狙っていたのかもしれないな。

本作がコケた後もマッコイはシャロンを気にかけ、全米首位の大ヒット<The Hustle>を飛ばした後のシングル<I'm In Your Corner>で彼女とデュエット。Sussexのオーナー:クラレンス・アヴァントも彼女を気に入っていたようで、フィリー・ソウル系の音楽出版社でくすぶっていた彼女を、新たに興越したTABUに誘っている。本作の7年後の好盤『FULL MOON』をプロデュースしたのは、ジャズ・ファンク系の名キーボード奏者にして編曲家ジェリー・ピータース。それも彼女の音楽性を示す人選だな。